映画 『怪談』

監督:小林正樹、脚本:水木洋子、原作:小泉八雲、製作:若槻繁、製作会社:文芸プロダクションにんじんくらぶ、撮影:瀬川浩、編集:相良久、美術:戸田重昌、音楽:武満徹、1964年、183分(オリジナル完全版)、カラー、配給:東宝


『人間の條件』(1959年~1961年)、『切腹』(1962年)で知られる小林正樹の初カラー作品。

小泉八雲『怪談』収録の「黒髪」、「雪女」、「耳無し芳一の話」と、『骨董』収録の「茶碗の中」の四つの怪談話を映画化したオムニバス作品。撮影期間は9ヶ月、当時の金額で、製作費は約3億2千万円とされる。

ほとんど全編、セットで撮られていることがわかる。スタジオには、廃屋となっていた旧日本國際航空工業の航空機の格納庫が使用されている。高さ9m・総延長220mの水平な敷地であり、大広間のセットは約600坪、和船10隻が浮かべられる巨大なプールなど、スタジオセットとしては大規模であった。


各話の主演と長さは以下の通り。

「黒髪」主演:三國連太郎、新珠三千代、約39分

「雪女」主演:仲代達矢、岸惠子、約44分

「耳無し芳一の話」主演::中村賀津雄、志村喬、約74分

「茶碗の中」主演:中村翫右衛門、滝沢修、約26分


「黒髪」が始まってすぐに、豪華なセットであることに気付くが、その後ラストに至るまで、そのセットの豪華さ・広大さ・精緻さには驚かされる。同時に、衣装、メイクアップ、照明、美術、ホリゾントの絵、撮影技法などすべてにおいて圧倒的であり、そこに武満徹の斬新な音の効果が入る。

「雪女」の膨大な量の雪、「耳無し芳一の話」本編に入る前の源平合戦のシーンの人形や舟のミニチュア、激しい雨など、製作陣入魂の出来ばえといより他にない。


小泉八雲の怖ろし気な幽玄の世界を、日本の美という枠にこだわって仕上げた贅沢な逸品だ。こうした映画が日本の映画にあることを誇りに思える作品だ。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。