映画 『ノスフェラトゥ』

製作・監督・脚本:ヴェルナー・ヘルツォーク、撮影:イェルク・シュミット=ライトヴァイン、編集:ベアテ・マインカ=ジェリングハウス、美術:ヘニング・フォン・ギールケ、音楽:ポポル・ヴー、衣装デザイン:ジゼラ・ストーチ、主演:クラウス・キンスキー、イザベル・アジャーニ、ブルーノ・ガンツ、1979年、107分、西ドイツ映画、英語、原題:Nosferatu : Phantom der Nacht(ノスフェラトゥ:夜の怪人)


ヘルツォークとクラウス・キンスキーが組んだ映画としては、『アギーレ/神の怒り』(1972年)と『フィツカラルド』(1982年)の間に生まれた作品である。

 

中世ドイツのブレーメンが舞台。不動産業を営むジョナサン(ブルーノ・ガンツ)と妻ルーシー(イザベル・アジャーニ)は、平穏な生活を営んでいた。

ある日、ジョナサンは、トランシルヴァニアに住むドラキュラ伯爵(クラウス・キンスキー)から、新しい邸宅をブレーメンに求めたいという要望があることを伝えられる。黒海近くのドラキュラ邸までは4週間近くかかるというが、ジョナサンは、この件で大金が入り、ルーシーのために新しい家を買うことができると判断し、不安を抱くルーシーを説得し、契約書を持って、長い旅に出た。・・・・・・


はるばるやってきたジョナサンを迎えた伯爵は、顔を白く塗り、尖った耳、鋭い二本の尖った前歯、異様に長く伸ばした爪で、黒いビロードのマントを着て、まるで髑髏(どくろ)が立っているかのようであった。


この映画では、ホラー映画のように、ドラキュラが相手の首元に噛みつき、血が流れ落ちるといったシーンはほとんどない。夜間に、いろいろ不吉な物音や鳴き声はしても、それらが姿を見せることもない。ドアが開閉するたびに軋む音や、不吉な音声がするだけである。

残虐なシーンもないかわりに、メイクアップ・大量のネズミ・脇役の異様な話し方などで、全体的に異様な印象を与えてくるのである。主役はみな、顔が白塗りと言えるほどのメイクアップで、冒頭に登場するルーシーも、すでにそうした顔色となっている。


ラスト近く、お気に入りのルーシーの寝る脇で、ドラキュラはルーシーの喉を噛むが、それはルーシーの作戦であり、ドラキュラは朝日を浴び、その場で死んでしまう。しかし、すでにドラキュラに血を吸われていたジョナサンが、新たな吸血鬼となる。


ドラキュラはルーシーに会いたいがために、黒い棺桶に忍び込んで、帆船に乗り、ブレーメンに着くのであるが、その際、他の多数の棺桶に入れられていたのが、土と大量のネズミである。このネズミの大群は、ブレーメンにペストをばら撒く意図で、ドラキュラが仕組んだ罠であった。

大量のネズミが、船着き場や建物の周辺を覆っている光景は、何とも異様である。


この映画は、ストーリーとして見るより、映像の<おもしろさ>を味わう映画であろう。オープニング・シークエンスに次から次へと映されるミイラのアップから、すでにそれは始まっている。


映画は映像であるから、そのへん、ヘルツォークは、しっかり心得ているものと思われる。ただ、評価や好き嫌いは別れるだろう。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。