監督・脚本:アンドリュー・ニコル、撮影:スワヴォミール・イジャック、編集:リサ・ゼノ・チャーギン、音楽:マイケル・ナイマン、主演:イーサン・ホーク、ユマ・サーマン、ジュード・ロウ、1997年、106分、原題: Gattaca
「Gattaca」とは、 DNAの基本塩基である guanine(グアニン)、adenine(アデニン)、thymine(チミン)、cytosine(シトシン)の頭文字を使った造語。
アンドリュー・ニコルの初監督作品である。
冒頭近く、THE NOT-TOO-DISTANT FUTURE(そう遠くない未来、の話)と出る。
そう遠くない未来、「ガタカ」という「適合者(valid)」たちが集まる研究所では、宇宙探査のため、ロケットが頻繁に打ち上げられていた。
「適格者」とは、遺伝子操作により、身体健康にして体力・知力・能力も卓越した男女のことで、「不適格者(in-valid)」は、このグループには入れない。
ヴィンセント・アントン・フリーマン(イーサン・ホーク)は、誕生のときに30歳前後までの生命であると両親が告知されたことを知っており、健康な弟アントン・フリーマン(ローレン・ディーン)にも体力的に劣っていて、何をしても弟にかなわなかった。これを自覚したヴィンセントは、それでも「適格者」となり、ガタカの一員になり、宇宙飛行士になる夢を捨てられずにいた。
あるときヴィンセントは、DNAのブローカーから、自分のDNAを売りたいという「適格者」からの申し出があることを知る。その「適格者」とは、オリンピックにも出場した経歴があり、銀メダルをもつ元水泳選手ジェローム・ユージーン・モロー(ジュード・ロウ)であった。ジェロームは、脚を負傷し、車いすの生活を余儀なくされ、選手生命はすでに絶たれていた。
ヴィンセントは、ジェロームの家賃を払うかわりに、血液や尿などを譲り受け、ジェロームに成り代わる。その結果、ヴィンセントは、どんな生体認証テストを受けても「適格者」と判断される。
こうしてヴィンセントはジェロームになりすまし、宇宙探査船の飛行士に選ばれる。
ところが、あと一週間で探査船が発射されるというとき、ヴィンセントの上司が無惨な死体で見つかる。警察は総力を挙げて、捜査を始める。事件現場で発見されたまつ毛はヴィンセントのものであり、ジェロームになりすましているヴィンセントにも、徐々に疑いの目が向けられていく。・・・・・・
近未来の出来事という時代設定、DNAによる「適格者」「不適格者」の選別、なりすましたあとの生体認証テスト、など、SF風味とサスペンスを交えた作品で、エンタメ性も確保されており、高く評価できる。
脚本は精密だ。ヴィンセントの幼いころの弟との確執や将来への夢は、言葉でなく、きっちりと映像で示される。事件の捜査では、二人の捜査官が指揮をとるが、若い方の刑事のほうは、もしかしたら、と思わせる運びはうまい。この刑事こそ、終盤で、ヴィンセントの弟アントンであることがわかるからだ。
設定からして、美術班・ロケ班の役割と責任は大きい。巨大なガタカの建物、その内部の通路・実験室・学習室など、空間に余裕をもって作られ、配色もそれらしく作られている。室内シーンが多いこの映画では、外に出るシーンは貴重だ。青空や下界がスクリーン一杯に広がるシーンは、美しく壮大である。
カメラも対象との距離や、そのシーンの意味に即し、適切且つ流麗によく動いている。
ヴィンセントの正体を知らず、「ジェローム」に思いを寄せるガタカの「適格者」アイリーン・カッシーニ(ユマ・サーマン)は、この映画では唯一の女性の出演だ。二人が愛を確かめ合うシーンは、海辺のガラス張りの部屋で、上下を逆さに映し、波打ち際にだぶらせて撮っている。
この映画には、前提として、「適格者」「不適格者」という差別がある。ヴィンセントを初め、自らやその子供が「不適格者」であることを知る者、そこから生まれる「適格者」への憧れや妬み、あるいは敬意といったものが、ストーリー上にも重要な作用をしている。
ラスト近く、探査船に乗り込む直前、尿の生体認証テストが抜き打ちで行われ、ヴィンセントは、もはやこれまでか、と諦めるが、医師レイマー(ザンダー・バークレー)は、「in-valid」を「valid」と置き換える。ありがたかったが不思議に思うヴィンセントに対し、レイマーは、「私の子供は、君を英雄と思っているよ」と告げる。この話は、冒頭近いところで、同じようにレイマーから話されている。レイマーの子は、「不適格者」なのである。
「不適格者」であっても、仮にそれが、違法な手段で「適格者」に偽造した「不適格者」であっても、この差別に反発する人間は、ガタカ内部にも多く存在する。また、この映画を、時代的に、データ上の適格の可否だけが問題となり、DANテストさえクリアすれば、それ以外の要素は考慮されない、という社会に対するアンチテーゼ、と見ることもできる。
水泳選手として選手生命を絶たれたホンモノのジェロームが、「俺は旅に出る」と告げ、血液や尿を大量にヴィンセントに残し、ヴィンセントの探査船が発射されると、自ら焼却炉に入りホンモノのジェロームとしての存在を抹殺する。
このシーンは、夢を実現したヴィンセントと交互に描写され、医師レイマーのシーンと並び、胸が締め付けられるラストだ。
アントンの部下ヒューゴ役のアラン・アーキン、清掃係シーザー役のアーネスト・ボーグナインなど脇役も、主演4人をしっかり支えている。
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