映画 『ラルジャン』

監督・脚本:ロベール・ブレッソン、原作:トルストイ、撮影:パスクァリーノ・デ・サンティス、エマニュエル・マシュエル、編集:ジャン=フランソワ・ノドン、主演:クリスチャン・パティ、カロリーヌ・ラング、1983年、84分、フランス・スイス合作、カラー、原題:L'Argent


アルジャンとはお金のこと。英語なら、The Money だ。


少年二人が写真店で偽札を使う。だまされたと知った店の夫婦は、石油販売で給油しにきたイヴォン(クリスチャン・パテイ)に、その偽札を混ぜて支払いをする。

その後、イヴォンは食事の代金に、偽札と知らずそれを使い、店員に断わられるので、店員を突き飛ばしてしまう。・・・・・・


偽札が事件として通常の展開にならず、最初の一件を契機にイヴォンの日常が、不条理にも、悲劇的に変わっていくようすを描いている。

音楽が一切なく、後半に出てくる老人が弾くバッハのピアノだけだ。

金にかかわるさまざまな人間の選択が出てくる。

 

ストーリーはあるにはあるが、単線的でそれに変化を加えるわけでもなく、恥とも思っていない。それどころか、わかるだろうところには大胆な省略もある。

この映画は映像と音を楽しむ映画なのだ。登場人物に一度も笑顔が見られない。

 

お札を調べるときの紙の音、扉の開閉の音、靴の音、杓子の落ちる音、グラスの落ちた音、小川のせせらぎの音、バイクの音、そして頻繁に出てくる車の走る音。

突き倒すシーン、殺すシーン、はたくシーンなどを直接映さず、その前後の映像のみでわからせる。

 

カメラもほとんど動かず、固定のモンタージュが多い。

時間的にもちょうどよく、映像の連なりと音を楽しめる映画だ。

まさに映像の世界だ、こういう映画、大好きだ。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。