映画 『鍵』

監督:市川崑、原作:谷崎潤一郎、脚本:長谷部慶治、和田夏十、市川崑、撮影:宮川一夫、照明:伊藤幸夫、美術:下河原友雄、録音:西井憲一、編集:中静達治、音楽:芥川也寸志、主演:京マチ子、叶順子、仲代達矢、中村鴈治郎、1959年、107分、カラー、大映。


昭和34年の映画だがカラー作品。

谷崎潤一郎の『鍵』をもとにしてつくられ、鍵の意味もラストも変更が加えられているが、原作の雰囲気はほぼ忠実に活かされている。


自分より年の離れた若い妻を溺愛する一方、性的能力に衰えを自覚する夫は、一人娘の婚約者を自宅に招くなどして妻に近付かせ、妻とその若い男が仲良くする姿を見て自らに嫉妬心を煽って夜の営みに精を出すが、無理がたたって脳溢血で死亡する、・・・ 

・・・あらすじはこんなところだが、映画としてさまざなくふうを凝らし、谷崎文学の耽美の世界を、メイク、せりふ、カメラ、演出でみごとに描き切った名作だ。

 

娘の婚約者役の仲代達矢の薄気味悪い表情と演技、京マチ子の能面のようなメイクと白い肌、ばあや役の北林谷栄のとぼけた話し方など、滑稽味をもつ台詞やいろいろな暗喩と相まって、日常に材をとりながら非日常的ともいえる官能の空間を非常にうまく造り出している。

 

妻の美しい肢体から立ち上る湯気、その女体を夫と娘の婚約者がベッドに運ぶという奇異なようす、電気スタンドで明るく照らした妻の裸体をポラロイドカメラで撮る夫の隠微な楽しみ、…言い出したらキリがないほど、ワンシーンごとに映像の遊び心も伝わってくる。

京都ことばのせりふも効果的だ。

 

原作にもあるように、登場人物の4人それぞれが陰険でありながら、妻を堕落させることでは共通している。

 

ラブシーンや直接的会話でなく、婉曲な会話のやりとりと演出、間合いの取り方やカメラのフレームや引きなど、映像上の技術のみで、充分に男女の欲望や心の動きをあらわすことに成功した秀作だ。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。