映画 『チア男子!!』

監督:風間太樹、脚本:登米裕一、原作:朝井リョウ「チア男子!!」、撮影:清川耕史、編集:加藤ひとみ、照明:織田誠、美術:仲前智治、録音:石寺健一、音楽:野崎良太 & Musilogue、主演:横浜流星、中尾暢樹、2019年、118分、配給:バンダイナムコアーツ、ポニーキャニオン


TVのほうで、途中まで見ていたこともあり、こちらの実写版も見てみた。

『桐島、部活やめるってよ』と同じ、朝井リョウ原作であり、『桐島…』は小説からの映画化であるのに対し、こちらは、小説→TVアニメ→映画というプロセスになっている。いずれにせよ。漫画を実写化すると失敗作が多くなるなか、小説からの映画化はわりとうまくいくケースが多く、本作品は間にTVアニメを挟んだこともあり、ある意味、反省材料が間に入ったことで、よりよい仕上がりになっている。


SFものは中学生、スポ根ものは高校生が主役となることが多いが、本作品は、大学生が中心であり、チアという、スポーツ系とはいっても、まだ歴史の浅い、偏見もあるような部活での活躍を描いたものだ。そもそもの題材に、新鮮味や、偏見に対し湧き上がる情熱が用意されていて、初めから、テーマとして得をしている。


ストーリーは、坂東晴希(横浜流星)と橋本一馬(中尾暢樹)の二人を軸として、あまり紆余曲折をせず、横にブレ過ぎず、スマートに展開していく。晴希が柔道を断念する、一馬が祖母の面倒もありチアを辞めると言い出す、徳川翔(瀬戸利樹)が高城さくら(唐田えりか)にケガを負わせた責任と恐怖心からスタンツには加わらないと条件を出す、など、話の本筋のかかわる危機もあるが、そこにあまり深く入り込まなかったのがよかった。


ラストに向けての流れは、映画の進行そのもので、文化祭での「BREAKERS」の実技お披露目が圧巻となり、晴希の柔道引退に最後まで反対していた姉、晴子(清水くるみ)も応援に駆け付け、初めて笑顔を見せ、さくらも車いすから立って拍手を送る。見る側も爽快な気分に浸れるラストである。「BREAKERS」のユニフォームデザインも、女子チアに対する男子チアを象徴していてよい。


カメラは基本に忠実で、違和感はない。こういうスポーツものでは、その演技や練習のときの撮影・編集がモノを言う。いろいろな角度からの撮影や丁寧な編集が偲ばれる。イヤミにならないカットの畳みかけと、フィルムを思い切って切り落としたおかげで、演技や練習のシーンがうまくまとまった。


冒頭に、同じく大学を舞台とする『カミュなんて知らない』(2005年)の冒頭に似た長回しがある。こちらは約2分10秒ではあるが、そこに、後にメンバーになる人物の一部が映されている。この導入も、クセがなく、ストーリーへの牽引力をもち、よかった。


対戦相手があり、勝利を賭けて試合に臨む、といった内容ではないので、手に汗握るという作品ではない。晴希と一馬を軸に、メンバーを集め、翔も加わり、練習を繰り返し、上達していこうとする純真さの織り成すドラマである。これはこれでいいのだ。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。