監督:吉田大八、原作:朝井リョウ、脚本:喜安浩平、吉田大八、撮影:近藤龍人、編集:日下部元孝、音楽:近藤達郎、主演:神木隆之介、東出昌大、2012年、103分、配給:ショウゲート。
脚本のひとり、喜安浩平は、日本を代表すると言って過言でないボクシングアニメ『はじめの一歩』で、主演の幕之内一歩の声を担当していた。
とある高校が舞台。ロケは高知県にある複数の高校となっている。
放課後の部活など、高校では日常的なありふれた光景のなか、バレー部の桐島という生徒が、部活をやめたらしいという噂が流れる。
桐島は、バレー部の活躍だけでなく、彼女もおり、友達グループもあり、勉強面でも運動面でも、クラスの人気者である。
その桐島が部活をやめるということは、周囲にとっては青天の霹靂であった。
桐島に、友達や彼女が連絡をとるが、メールも返ってこない。
しかし、そんなこともありながら、日々の高校生活は、またあすを迎える。・・・・・・
桐島という生徒は、一度も登場しない。それらしいフェイントのかかるところがあるが、まともには一度も登場しない。
部活の実力者として、恋人として、友人として、無意識に交流が続いていた人物が、忽然と姿を消し、連絡も途絶える。
その影響は、彼女だけでなく、部活の同輩後輩から、同じ塾に通う友人にまで及ぶ。
映画は、時系列で進まず、桐島が部活をやめた金曜日から翌週火曜日までを、それぞれの曜日のエピソードを重ねていくことで、畳みかけるように進行する。
特に、はじめの金曜日は、ほぼ同じ時間帯を四様の角度からとらえ、ラストの火曜日も繰り返される。
生徒による校内ライフル銃撃事件を素材にしたガス・ヴァン・サント監督の『エレファント』(2003年)と同じ手法である。
高校生ころの細やかな感情をきちんと拾ったセリフややりとりには共感できるし、セットなども実際の高校の教室や校舎、屋上を使っているので、現場の光が入り、望遠で撮られた景色や運動場も、映画が日常のひとこまであることを示すようになり、リアリティがあってよい。世紀の駄作『告白』(2010年)とは雲泥の差である。
いくつかの賞も受賞しているようだが、いままでにあまりない製作のしかたや、高校が舞台であるのに、明るく朗らかで活発な日常ではなく、どこかサスペンスの香りをさせる演出もよかった。
いわゆるお涙頂戴でもなく、恋愛に照準を絞ったものでもなく、進路や受験の悩みをかかえることを描くわけでもない。
桐島は現れないが、桐島の存在からはいちばん遠くにいる、つまりその退部や失踪でいちばん影響を受けていない前田(神木隆之介)が事実上の主役となっている。
この設定はおもしろいし、ストーリー展開の基本を主軸として支えている。この作品を成功させた主因だろう。
舞台は高校であり、ロケを使いながら、それ自体が一種の虚構のように感じられる演出が功を奏している。
これは、屋上で前田らが映画部の映画を撮っていたところ、桐島を見たということで集まった生徒たちがどやどややってきて撮影ができず、両者が格闘寸前になり、その状況を撮ることで、そこがそのまま、部員たちが集まってきた生徒たちに襲いかかるゾンビの映画になっていくことからもわかる。
皆を翻弄し心配させた桐島は、ついに現れず、その後周囲がどうなっていくのか、ということまでは説明されず、映画は終わる。
桐島といちばん親しかった宏樹(東出昌大)が、その事実をあらためて認識してか、涙ぐむシーンは、ラストとしてよかった。
このシーンは、さっきの騒動でとっ散らかった屋上を宏樹が去る時、前田の使っていた8ミリのレンズカバーを拾って、すぐ戻ってそれを前田に手渡すところからひとつの流れとなっている。
宏樹はそのカメラを手にして前田を覗き込むが、逆光だからと言って今度は前田が持って、宏樹を撮る。そのカメラの映像のなかで宏樹は涙ぐむ。
カメラを向けられて、つい感情が高ぶるということはよくあることだろう。
宏樹は桐島とは正反対の位置にいる生徒だ。野球部に属しながら幽霊部員であり、何かにつけあまり主体的に動いていくほうでもない。でありながら、桐島とは親友であった。しかし彼は桐島から、何も聞かされないし知らされない。
その宏樹をラストで、8ミリを介して向かい合うのが、桐島からはいちばん遠くにいる前田であった。このラストは想定しにくいが、それだけに、観る者を快く裏切ってくれている。
ある生徒が部活をやめたということから、これだけの話を紡ぎ出した原作と、あまり見ない時系列並列の脚本がよかった。
そしてやはり神木隆之介くんであろう。子役のときは、よくテレビで見ていた。もうこんなに大きくなったのだなあと思う。
セリフやしぐさが役に成り切っていて、実にうまい。セリフを言っていないときの演技もうまい。
ある人が、他の配役は替わりがありうるとしても、この前田は神木しかできないだろうとコメントしていた。
そのとおりと思う。
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