映画 『悪徳』

監督・製作:ロバート・アルドリッチ、原作:クリフォード・オデッツ、脚本:ジェームズ・ポー、撮影:アーネスト・ラズロ、音楽:フランク・デヴォール、1955年、114分、白黒、原題:The Big Knife


『特攻大作戦』(1967年)で知られるロバート・アルドリッチ監督の初期作品。

本作品で、ロバート・アルドリッチは、第16回 ベネチア国際映画祭(1955年)銀獅子賞を受けている。


ハリウッドの有名なスター、チャーリー・キャッスル(ジャック・パランス)は、広大な土地と邸をもち、付き人のミッキー(ニック・デニス)を相手に、庭でボクシングの練習をしている。

そこに、ゴシップ週刊誌の記者である中年女性パティ(イルカ・チェイス)が押しかけ、根掘り葉掘りの質問をしているさなか、二階から、妻マリオン(アイダ・ルピノ)が下りてきた。二人は別居中だという噂があったので、記者は意外に思いつつ、出て行った。

だが、噂どおり、チャーリーとマリオンは、離婚寸前のところまで来ていた。映画会社との契約更新が迫っていたが、マリオンは、チャーリーが契約を更新せず、他の会社に移籍したうえ、息子と三人の私生活を大事にしたいと考えており、チャーリーが契約更新するなら、離婚は確定的になってしまうのであった。チャーリー自身も、今の三流映画ばかり撮る今の会社に不満があった。

数日後、突然、業を煮やした社長スタンリー・ホフ(ロッド・スタイガー)と、その部下スマイリー(ウェンデル・コーリイ)がやってきて、チャーリーに契約更新を迫った。会社としては売れっ子スターを手放すわけにはいかず、7年の契約をとりたかったが、マリオンの心がまだ離れていないことを知るチャーリーは、契約には抵抗し躊躇した。

ところが、チャーリーには、ある弱みがあり、ホフはそれをちらつかせ、チャーリーに契約させてしまった。・・・・・・


1949年にブロードウェイで初演されたクリフォード・オデッツ原作の同名の舞台劇を、ジェイムズ・ポーが映画用に脚本化した。オルドリッチ自身が製作した。

ハリウッドを批判する内容のため、大手メジャーに配給を断られ、最終的にユナイテッド・アーティスツが配給を手がけることになった。

撮影は1955年4月25日から15日間で、クランクアップされたという。


映画は、チャーリーとマリオンの絆の行方を軸に、会社側からの圧力に抵抗する俳優の立場を描くが、そこに、チャーリーの女友達や、マリオンがいま付き合っているハンク(ウェズリー・アディ)、売れない女優で密告魔のディクシー・エヴァンズ(シェリー・ウィンタース)らが登場し、いわばモンタージュ方式のようなやりかたで、映画会社の意向と、妻や自身の本心との間で揺れる、チャーリーの心理が焙り出されていく。

「The Big Knife」というタイトルは、会社から契約を更新しろという、チャーリーへの脅迫を象徴しているのだろう。邦題の『悪徳』は、その意を汲んで、チャーリーに対する会社側の姿勢を指した意訳であろう。


もともとが舞台劇であるため、徹底した会話劇ともなっており、ブロードウェイ演劇界の裏側を描いた『イヴの総て』(1950年)に似る。

舞台は、出だし以外は、ほとんどがチャーリーの邸宅の居間である。

そこに、さまざまな人物が登場し、会話によってストーリーが進行していく。この居間には、カウンターバーがあり、ソファも数組あり、壁には絵がかかっており、左奥に玄関があるようで、来客は、そこから現われ、そちらへと去って行く。隅に、二階に上がる螺旋階段があり、冒頭近く、マリオンが下りてくるのはここであり、ラスト近く、風呂へ入るといってチャーリーが昇っていくのも、この階段である。


俳優たちの演技合戦が見られ、水準も高い映画だが、ワンステージものとしては、少々詰め込み過ぎた感はある。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。