監督・脚本:トム・シックス、製作:イローナ・シックス、トム・シックス、撮影:デヴィッド・メドウズ、編集:ナイジェル・デ・ホンド、音楽:ジェームズ・エドワード・バーカー、主演:ローレンス・R・ハーヴェイ、2011年、91分、モノクロ、オランダ・イギリス合作、英語、R18+、原題:The Human Centipede II (Full Sequence)
前作『ムカデ人間』(2009年)と同じ監督で、長さもほとんど同じだが、こちらはカラーではない。ただ、前回とは比べものにならぬほど、グロテスクこの上ない作品だ。
主演マーティン役のローレンス・R・ハーヴェイ(現在48歳)はイギリスの俳優で、この作品で初めて世界的に有名になったが、本国では子供向けの番組に出るなど愛嬌のある表情が売りのようだ。日本の映画が好きな親日家でもある。
マーティンは、ロンドンのとある地下駐車場で、ひとりで夜間の警備員をしている。
駐車場の監視をしながら、PCで『ムカデ人間』のDVDを観るうち、ついに、自ら、ムカデ人間を実現させようとする欲望を抑えきれず決行することにした。
前作が、仮にも、医師であるヨーゼフ・ハイター博士が、ムカデ人間を実現するべく、多少とも医学的な描写があったのに対し、本作は、もろにスプラッターホラーとなっている。
白黒にされているだけに、血の色を見ないが、カメラが引いて倉庫にころがる全員を捉えるシーンなど、黒がぎらぎらとして、かえってなまなましく感じる。
カラーでないだけに、フィルム上ではどこか思索的な雰囲気を醸し出している。これは、屈折したマーティンの心理を表わすのにひと役買っている。
とはいえ、やはり前作とは異なり、特に後半は残虐シーンの連続で、ストーリー性は後回しにされた感がある。それが狙いなら、これもしかたない。
単なるスプラッターで終わらず、イーライ・ロス監督の『キャビン・フィーバー』をはるかに超えて、不潔度と薄気味悪さ満点であり、ミヒャエル・ハネケ監督の 『ファニーゲーム』と似た不愉快さ・嫌悪感を放ちまくる映画となっている。残虐性において、イーライ・ロスのヒット作『ホステル』シリーズに並ぶだろう。
全編にわたり猟奇的であり、精神異常者の犯行そのものである。マーティンはハイターと違って医者ではなく、全くの素人であり、自らの趣味として、ムカデ人間を実現させようというのだ。それゆえ方法が稚拙であるが、それだけに素人の異常性を思い知らせてくれる。
そもそも、主演のローレンス・R・ハーヴェイという俳優が、実に醜いのだ。存在からそのまま悪臭を放つようだ。
髪は薄く頭の前側は後退しており、頬が膨れ、首もなく、目はギョロ目で、瓶底メガネをかけるときもある。チビでデブであり、全裸のシーンも数回出てくるが、腹だけが異様に膨らんで垂れており、下腹部を覆うほどだ。ハゲも腹もメイクではない。
下腹部が映るときはボカシが入るが、それでもなお、ペニスは、浮き袋の空気注入口並みの短小さであることがわかる。
同居する実の母親からも疎んじられ、義理の父親はプロレスラーのような体格で全身に入れ墨が入ってる。
母親殺害のシーンは迫力がある。向かい合っての食事中だが、ムカデを飼うことなどをなじられ、拳銃で頭を撃ち抜く。頭の中央が吹っ飛んで向こうが見えるほどの頭部に、髪の毛だけが付いている状態で、その死体をいすに座らせる。それに向かい合って、マーティンは平然と食事をするのだ。
マーティンは時折自慰行為に走るが、なぜだかペニスにサンドペーパーを当てがう。それはマーティンにとっての快楽なのだ。サンドペーパーに包まれたペニスが血まみれ状態でオナニーするシーンにはボカシが入る。
劣等感にさいなまれ、肉親にも見放され、到底女性にも相手にされず、ムカデ人間の実現こそが、彼の生きがいであり幸福となる。
ガムテープで手足を縛られた全裸の老若男女が、広い倉庫のそこここでうめき声を上げ、のたうちまわる光景は異様そのものだが、マーティンにとって、それはまだ過激な「手術」のウォーミングアップに過ぎない。
立てないように膝の肉をはがし腱を切り、歯をバールで砕き、前の人間の肛門と次の人間の口は大型ホチキスで留めるなど、凄惨なシーンが連続する。
最初の人間にものを食わせてもなかなか排泄して次の人間に移動しない。マーティンは苛立って、各人全員の尻に下剤を注射して回る。
しばらくすると、全員の腹からグーグー鳴る音が聞こえ、前の人間の排泄物は次の人間の口へと流れていく。口からこぼれてしまう者もある。
マーティンはその光景を見て狂喜するが、すぐにゲロを吐くというのはご愛嬌だ。
このおぞましい映画は、当然R18+であるが、一般の観客が観ても絶えられないシーンが多い。
ストーリー性やカメラワークより、マーティンの心情に成りきって視聴するよりほかにない。
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