映画 『ムカデ人間』

監督・脚本・編集:トム・シックス、製作:トム・シックス、イローナ・シックス、撮影:グーフ・デ・コニング、音楽:パトリック・サベージ、オレグ・スピーズ、主演:ディーター・ラーザー、2009年、90分、オランダ映画、英語、原題:The Human Centipede (First Sequence)


オープニングからそのままドイツ郊外の高速道路わきにカメラがパンすると、シルバーのベンツが側道に停まっており、乗っているのは主役ハイター博士(ディーター・ラーザー)で、後ろに停まったトラックの運ちゃんが野糞を垂れているところを麻酔銃で仕留める。

一方、ニューヨークからやってきたリンジーとジェニーは、ドライブ中、タイヤがパンクしたため、森をさまよううち、一軒の豪邸にたどりつくが、それはハンター博士の自宅だった。ハンターは車の修理屋を呼ぶと嘘をつき、二人に、睡眠薬の入った水を飲ます。

目覚めてみると、二人はベッドに手足を拘束されて身動きできなくなっていた。・・・・・・


トラックの運ちゃんは「適合しない」という理由でその場で殺され、そのかわりに連れてこられたのが、日本人の男(北村昭博)である。

予告編や前宣伝でグッドアイデアとわかっているだけに、そこをどう描写するかを楽しみに観に行った。レイトショーでしかやらないこの映画のため渋谷パルコまで足を運んだ。期待は、半分裏切られ、半分期待どおりに終わった。

 

いわゆるホラー映画の残酷シーン、痛いシーンを期待していると、そのようなシーンはほとんどない。手術の図解や説明はあるものの、血を見るのは通常の犯罪映画なみで、独特だとすれば、女の子の口から犬歯を抜くところくらいだ。

逆に、この映画の真の主役、ディーター・ラーザーの顔つきや表情のほうが恐ろしく、同時におかしいのだ。シーンによっては、場内から笑い声が起きていた。

 

手術後、先頭を日本人にした三体のつながった<ムカデ>がのそのそ歩くシーンは、痛いとかかわいそうというより、ぶざまで滑稽だ。日本人が糞をしたくなり、後ろの女の子に向かって、ごめんな~などと言うのは失笑する以外にない。

 

行方不明者の捜索に来た刑事二人も、ハンターも、両者の撃ち合いで死んでしまい、「ムカデ人間」は先頭の日本人が喉を切って死に、最後尾の女の子は副作用で死んでしまう。

奥の室内プールで、ハンターと刑事二人が死亡し、三体の前後が死んでしまい、口が前の日本人の肛門とつながれ、話すことができず、身動きもできない真ん中の女の子は、うめく以外に何もできない。そのまま、カメラは家から屋根、外界の景色へとパンし、そこで終わる。 


カメラの動きもスムーズだし、ハンター邸の室内もきれいで、よくある汚い系のホラーとは違う。いずれにしても、人気先行すると予想できるので、やはり笑いをとれるよりは、尻の肉をえぐるくらいのシーンはほしかった。 


蛇足だが、日本人男が喉をみずから切る前に、ハンターに向かってひとくさり話すシーンがある。全くバカなセリフで、そんなものを入れるより、ハンターに、「どうしたカミカゼ?」などと呼ばれていたのだから、何かアクションを起こして死なせるほうがよかった。


DVDで充分鑑賞できる映画。『共喰山』(2010年)よりはお上品。


なお、『ムカデ人間2』(2011年)、最終作の『ムカデ人間3』(2015年)は監督が同じであるが、内容上の連続性はない。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。