監督:森一生、脚本:長谷川公之、監修:日下部一郎、撮影:今井ひろし、編集:谷口登志夫、照明:伊藤貞一、美術:太田誠一、音楽:斉藤一郎、主演:市川雷蔵、村松英子、1966年9月、81分、製作・配給:大映
「陸軍中野学校」シリーズ第二目。『陸軍中野学校』(1966年6月)が、陸軍中野学校の誕生から帝国陸軍の一機関となるまでの経緯を中心に描かれたのに対し、本作品からは、いよいよ敵国スパイとの対決が中心となる。
昭和14年9月、三好次郎(中野学校での偽名・椎名次郎、市川雷蔵)は、朝鮮半島の列車内にいたが、 草薙中佐(加東大介)からの電報により、急遽日本本土に戻る。神戸で再会した草薙によると、神戸港で、陸軍の新型爆弾・特三型砲弾を積載した大型輸送船が爆破され、沈没した、とのことだった。この爆破事故には敵国スパイが絡んでおり、それを調査するために、椎名が呼び戻されたのであった。陸軍ではこれを「雲(くも)一号指令」と称し、椎名は、学校同期の杉本(仲村隆)とともに、その使命を果たしていく。
スパイの中心人物・梅香(うめか)に村松英子、スパイの導き役・佐々木に中野誠也、憲兵隊の山岡中佐に戸浦六宏、山岡の部下で梅香に騙される西田大尉を佐藤慶、など、懐かしい顔ぶれが多いのもうれしい。
三好らが初めに目をつけたスパイの男は警備員であり、三好が後を追うと、定時に定食屋に行き、定時に銭湯に行く。しかし、その定食屋の亭主・周(伊達三郎、中国人)もスパイであり、梅香の指南役であり、またキリスト教会にも出入りしており、神父とも懇意にはなしていたが、実は、教会の奥にスパイの情報交換基地があり、教会の尖塔が電波の発信源となっていたこともわかってくる。銭湯での男湯女湯の境の板の下から、何かを渡したり、落ちた新聞を拾うフリをして小型カメラで撮ったフィルムを新聞にくるんで渡したりと、スパイ大作戦的な動きもあって楽しめる。
当初、三好をばかにしていた西田が、実は遊び相手の梅香に機密を抜かれていたり、大学同窓の佐々木がスパイの導き役であるなど、スパイのほうも、中野学校卒のスパイ同様、なかなかやり手である。こうなると、スパイ合戦ともなり、エンタメ性も増す。
教会の神父はアメリカ人であるが、その奥の建物をスパイの密会場所にしているなど、神父の顔をした売国奴である。佐々木も梅香も同じ穴の貉である。三好が梅香に疑いをかけたことに憤慨した西田は、三人で会うことにする。正体を暴かれた梅香は、その場で西田に射殺され、西田も自らこめかみを撃ち自害する。
周が教会奥の部屋で、梅香にスパイの訓練をする。ある注射をして、意識朦朧としたなかでも<嘘>を言えるか、という訓練だ。梅香は、ラスト近くで明らかになるとおり、中国人のスパイであり、大津に実在した梅香という女性に成り代わっていたのだ。
その梅香が、西田に射殺される寸前、三好に問い詰められてようやく正体を白状する。「私が日本人なら売国奴でしょう。だが私は日本人ではありません、祖国に殉ずる愛国者なのです。私は祖国を日本の侵略から守る戦士の一人です、と。
生き生きとした台詞で売国奴などという言葉が使われている映画は、今の時代にはないだろう。
それにしても、教会が、中国のスパイ基地であったとは、単なるフィクションではなく、当時からそうした現実があってのことだろう。その後、日本のキリスト教会が、実は、共産党や反日団体の隠れ蓑にもなってきたのは事実である。
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