監督:増村保造、脚本:星川清司、撮影:小林節雄、編集:中静達治、音楽 :山内正、主演:市川雷蔵、加東大介、小川真由美、1966年(昭和41年)6月、96分、製作・配給:大映
1938年10月、三好次郎陸軍少尉(市川雷蔵)は、所属する連隊で草薙中佐(加東大介)の訪問を受け、次々と質問を浴びせられる。一週間後、三好は、陸軍省に出頭せよとの極秘命令を受け、母と許嫁の布引雪子(小川真由美)には出張と偽って東京に向かう。
翌朝、三好をはじめ18人の若い陸軍少尉は、靖国神社参拝後、九段下のバラックに集められる。草薙は、1年間のスパイ教育と、軍服着用や軍隊用語の使用禁止、家族や友人・恋人との接見・交際・交信禁止、を命じる。草薙は、陸軍士官学校出身の純軍人で構成された参謀本部とは違い、世間離れしていない優秀なスパイを養成すべく、陸軍予備士官学校出身者である彼らを集めたのである。そこで様々な訓練を受け、講義を聴いたが、その後彼らの本拠は、中野電信隊跡に移った。ここでは、諜報において必要な技術、変装、ダンス、刑務所から借り出した金庫破りによる錠前の開け方、生理学者による女体の性感帯の知識にいたるまで、スパイとして必要なさまざまな知識・技術を習得していく。
一方、音信不通の三好の居場所を尋ね歩くうち、陸軍参謀本部の前田大尉(待田京介)と知り合いになり、参謀本部の暗号班に、タイピストとして勤務することになる。そこで働くうちに、三好の消息を知ることができるかもしれない、と考えたからであった。・・・・・・
三好という男の生きざまやスパイとしての成長ぶりを、陸軍中野学校の誕生から帝国陸軍の一機関となるまでの経緯や、中野学校と参謀本部の対立までを絡めて描いた脚本がすばらしい。三好が訓練を受ける過程では、18人の生徒らの集合しているシーンが多いが、三好にほとんど語らせず、周囲の生徒に台詞を預けることで、三好の心中を観る側に推察させていく演出もよかった。
言わば、スパイ養成物語なので、美しいシーンや屋外シーンなどはあまりないが、三好と雪子の関係がもう一つの軸に置かれており、二つの軸を揺れるという脚本の基本が確固としているので、退屈を感じない。冒頭に、三好と母(村瀬幸子)、そして雪子のシーンを置いたことで、<前置き>の重要性を熟知していることがわかる。
スパイとして成長した三好が、事実上、英国のスパイとなった雪子に対し、かつての恋愛感情などは全く消え、スパイが売国奴を殺すという図式に変化していることで、三好のスパイとしてのプロ化と同時に、三好がそこまで冷酷な人格に変貌を遂げていることに、任務とはいえ、恐ろしさを覚える。このあたりの市川雷蔵の表情の変化や抑えた演技はみごとだ。
どちらかと言えば喜劇風味の加東大介、早川雄三、ヤクザ映画で有名な待田京介を、軍人役に起用しているところもキャスティングとして成功している。小川真由美も、珍しく清楚な役回りだなと思いきや、ラストではベッドシーンでの出番となった。
0コメント