監督:山下耕作、脚本:高田宏治、原作:家田荘子、撮影:木村大作、美術:内藤昭、照明:増田悦章、編集:玉木濬夫、録音:堀池美夫、音楽:菊地ひみこ、主演:岩下志麻、1993年、115分、東映。
愛知県を拠点とする千之崎組の黒一色のビルが目立ち、住民からは、暴力団追放の提訴がなされ、住民運動が盛り上がるなか、千之崎組敗訴の判決が出た。組長・野木万之助(梅宮辰夫)は住民相手に手を焼いていたが、神戸に本拠を置く日本最大の暴力団・淡野組は、これを機に千之崎組を買収し、中部地方にも勢力を伸ばそうと、雁田(中尾彬)を万之助の義弟・高明(草刈正雄)に合わせ、叔父・笹部(神山繁)を通じ、住民運動の代表である市会議員・春日井(浜田晃)をも買収しようと画策していた。
高明の妻・千尋(かたせ梨乃)は、元万之助の愛人であったが、万之助の妻・安積(あづみ、岩下志麻)が仲を裂いて、自分の弟・高明と結婚させたのであった。
万之助は一本気な性格から、ビルを売って資金を得、住民と和解したうえで、買収を企む淡野組の組長・佐郷(佐藤慶)を殺害しようとする。ところが、土壇場で、行きつけのバーで、そこに連れ立って現れた笹部と春日井がつるんでいることを知り、ヤケをおこし、笹部を刺そうとする。笹部の手下が万之助を撃とうと銃を構えた瞬間、その手下を射殺したのは、ふいに現れた安積であった。
万之助がプロの殺し屋に殺されたあと出所した安積は、近代的なビルに変わった千之崎組の白いビルを見、街のようすも変わってしまったことに落胆し、香港に旅に出る。たまたま若いカップルの結婚の祝いをしている男と知り合い、一夜を共にする。その男、花杜(はなもり、北大路欣也)こそ、手下を使い、万之助を部下に殺させた殺し屋であった。
惚れ合った安積と花杜は、互いの立場を知ったうえで協力することになる。花杜は安積に、万之助を殺害させた張本人が誰かばらし、安積は花杜に、今度はその仇をとってほしいと依頼した。・・・・・・
シリーズの中では、あまり評価が高くないようだが、映画としてはエンタメ性も確保されており、おもしろいほうだ。
安積が、夫殺しの犯人、花杜と偶然出遭うことや、二人が恋に落ち、花杜が、今度は、香港の組織を裏切ってまで、安積の味方をするあたり、ストーリーとして強引だという点が指摘されている。しかし、架空の物語は、どんな話でも、常に、登場人物同士の<偶然の遭遇>から話が展開していくのであり、そこだけを責めたところで、意味がない。突っ込みどころ満載であっても、映画として上出来がどうかは、映像いかんにかかっている。
ストーリー展開は、極めてシンプルで、子供でもわかる。むしろ、その<わかりやす過ぎさ>がかえって仇になり、捻りが無さすぎるという点で批判の対象になるのであれば、映画ファンの見識の次元も上がってきたと言える。
女優が頻繁に映り、キャラ設定も、アニメ映画などよりさらにわかりやすい。娯楽作品として一級品だ。俳優の演技、立ち位置、表情やしぐさへの演出、カメラアングル、場面転換、殺陣シーンなど、仁侠映画を作り続けてきた山下耕作ならではの味わいがある。
岩下志麻の演技は、いつものとおり見ものだが、梅宮辰夫の小心な部分がある一方での堂々たる極道ぶり、草刈正雄、神山繁の大げさすぎる芝居もおもしろい。重しとしての加賀まりこ、アクセントとしての成田昭次の登場するタイミングもいい。
前半、淡野組の本家の応接室シーンは、へやをやや高めから撮る固定カメラでの長回しだ。こういうシーンは、キャリアを積まないとなかなか実現できないものだ。
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