アニメ映画 『名探偵コナン 業火の向日葵』

監督:静野孔文、脚本:櫻井武晴、原作:青山剛昌、撮影:西山仁、編集:岡田輝満、音楽:大野克夫、主な声の出演:高山みなみ、山口勝平、2015年、112分、東宝。


劇場版『名探偵コナン』シリーズの第19作目。

監督は、『沈黙の15分(クォーター)』(2011年)、『11人目のストライカー』(2012年)、『絶海の探偵(プライベート・アイ)』(2013年)、『異次元の狙撃手(スナイパー)』(2014年)の静野孔文で、このあと、『純黒の悪夢(ナイトメア)』(2016年)、『から紅の恋歌(ラブレター)』(2017年)を担当した。

脚本は、『絶海の探偵(プライベート・アイ)』(2013年)に次ぐ櫻井武晴で、その後、『純黒の悪夢(ナイトメア)』(2016年)、『ゼロの執行人』(2018年)、『緋色の弾丸』(2021年)を手掛けた。


シリーズのなかでは、いわゆる「芸術もの」であり、ゴッホの「ひまわり」に関する解説や、絵画の歴史的背景と命運、そこに絡む人物などのエピソードが巧みに挿入され、コナンやキッドのアクションシーンも多く、内容的に欲張った作品となっている。


「シリーズ」では登場しても準主役扱いである怪盗キッドが、コナンや蘭と並ぶ主役級となり、ストーリー上の中心である。ちなみに、劇場版にキッドが登場するのは、『世紀末の魔術師』(1999年)、『銀翼の奇術師(マジシャン)』(2004年)、『探偵たちの鎮魂歌(レクイエム)』(2006年)、『天空の難破船(ロスト・シップ)』(2010年)と、この監督・脚本ペア以前の作品ばかりで、本作品がこのペアで初のキッド登場である。

キッド人気は衰えを見せず、キッドファンに応えようとするかのように、キッドは、映像上でも、コナンと並び、大活躍している。


タイトルまでに12分あり、園子らを乗せた飛行機が、羽田空港に何とか着陸するまで23分ほどとし、その後は、鈴木次郎吉邸、損保ジャパン日本興亜美術館、レイクロック美術館へと舞台を移す。

ストーリー上、わかりにくいところはないが、犯人・宮台なつみの犯行動機についても、あっさり通り過ぎてしまったのは惜しい。彼女の犯行動機について、本人の回想シーンなどをわずかでも挿入し、コナンに語らせるだけの部分を補ってもよかった。大胆で計画的な犯行であり、また、キッドに妨害されるたびにそのやり口を変えていくほどの執拗な犯行動機であるからには、これまでに発生した事態とのバランスをとるためにも、本人の発言をどこかに入れたほうがよかった。

あっさり通り過ぎたもうひとつのところは、なぜキッドが、初めから、なつみの犯行計画を知ったか、そして、「ひまわり」を守る役回りを引き受けたか、という点だ。これは、ラスト近くで、キッド自身の口から明かされ、多少の回想も入るが、危険を顧みないキッドのそれまでの活躍とのバランスをとるためにも、その理由などもう少しどこかに入れるべきだった。


ミステリーを楽しむ要素が薄く、推理するシーンが略されてしまっている、という批判もあるようだが、元々3時間近くあったとされる尺を2時間程度に収めるからには、多少の犠牲も致し方なかったのだろう。上の点を除けば、コンパクトにまとまった娯楽作となっている。


オークション会場やそのビル内、飛行機の爆発、緊急着陸、高層ビル内にある損保ジャパン日本興亜美術館、そして贅を尽くしたレイクロック美術館とその圧倒的なセキュリティ対策など、全編に空間的広がりが豊かで、スケールが大きく、閉塞感がない。これにひと役買っているのはやはりキッドであり、というよりは、縦横無尽に動き回るキッドを登場させるための映像上の下準備といってもいいくらいだ。


キッドのかっこよさを初め、今でも「ひまわり」の絵に東淸助を偲ぶウメノの思いから、蘭とコナンを気遣うキッドの<仁義>を証明するような活躍ぶりに至るまで、真の愛や友情を描いたという点は評価したい。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。