映画 『私は死にたくない』

監督:ロバート・ワイズ、脚本:ネルドン・ギディング、ドン・マンキーウィッツ、撮影:ライオネル・リンドン、編集:ウィリアム・ホーンベック、音楽:ジョニー・マンデル、主演:スーザン・ヘイワード、1958年、120分、モノクロ、原題:: I Want to Live!


スーザン・ヘイワードがアカデミー主演女優賞を受賞した作品。


監督は、「市民ケーン」(1941年)、「キャット・ピープルの呪い」(1944年)、「ウエスト・サイド物語」(1961年)、「サウンド・オブ・ミュージック」(1965年)で知られるロバート・ワイズ。


無実の罪で収監され、死刑を執行された女性バーバラ・グレアム(スーザン・ヘイワード)の物語。本人の手記と、種々のレポートや記録などを照合して映画化した作品で、いわば実話である。


バーバラ・グレアムはジャズ好きで、ジャズバーに出入りし、その隣のホテルに、男としけ込むような生活を送っていた。ある男と結婚するが、その後別居してしまう。

ある老婦人が殺害された現場に、バーバラもいたということで、殺人の共犯とされるが、そのときバーバラは別のところにいて、夫と喧嘩をしていたのである。ところがその後、夫は失踪してしまったため、バーバラのアリバイを証明する者がおらず、実際に殺人を行った二人の男のニセの証言で、バーバラは捕まったのだ。


映画は、実在するバーバラ本人の手記などに基づいているため、逮捕後、特に後半は、バーバラ中心のストーリーとなっていく。裁判があり、有罪となり、再審も認められず、処刑が延期されながらも、ついにガス室で死刑執行されるまでが描かれる。


この、一見奔放だが、人間としての倫理観はもっているバーバラという女性のキャラクターは、演じる上で、また演出する側として、かなり難しかったであろうと推察される。このキャラを演じ切ってのアカデミー賞受賞ということなのだろう。人を信頼し、また裏切られることを繰り返すバーバラに対し、むやみに同情するつくりとはなっていない。

手記や記録に基づき、事実をそのまま描き出しているので、前半に展開されるエンタメ性は少しずつ封じ込められ、後半から終盤にかけては、弁護士ら多くの人々との関わり合いのなかで、シリアスな展開に絞られる。このあたりをどうとらえるかにより、評価は変わってくるだろう。


前半のストーリー展開は猛スピードといってもいいくらいだ。おそらく、無実の罪で死刑を宣告されたバーバラという女性の、必死の抵抗ぶりに焦点を当てるためであろう。

カメラは、バーバラのいろいろな表情・姿を、ヴァラエティに富んだアングルで捉えている。ガス室での処刑の準備や器具類の撮影など、ディーテイルにこだわってもいる。



日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。