映画 『記憶にございません!』

監督・脚本:三谷幸喜、撮影:山本英夫、編集:上野聡一、照明:小野晃、録音:瀬川徹夫、美術:棈木陽次、音楽:荻野清子、主演:中井貴一、2019年、127分、東宝。


内閣総理大臣・黒田啓介(中井貴一)は、頭に石を投げつけられ、記憶喪失になってしまう。秘書官らに、自身が記憶喪失であることは国家機密にするよう言われ、徐々に元の生活に戻るが、これに耐えられなくなった黒田は、ちょうどよい機会でもあり、今まで史上最低の首相であった自分の仕事を反省し、全く新たな政策を打ち出していく、私生活でも、妻・聡子(石田ゆり子)とうまく行っておらず、野党党首の女性議員・山西あかね(吉田羊)と不倫関係にあったが、これも終わらせ、今までぎくしゃくしていた息子・篤彦(濱田龍臣)にとっても、尊敬される父親となっていく。・・・・・・


「記憶にございません」は、ロッキード事件の証人喚問で有名になったフレーズであり、本作品でも、黒田の台詞として出てくる。


始まりから中盤までは、内容に沿うようにテンポがのろいが、黒田が新たな生き方を実行することを決意した後半以降は、止まっていたものが動き出すような展開となる。


たしかに滑稽なシーンや表情が多く、喜劇に違いないが、ライバルである官房長官・鶴丸大悟(草刈正雄)との確執や、米国女性大統領スーザン・ナリカワ(木村佳乃)とのやりとりを軸に、公私にわたる黒田の変身ぶりは、丁寧に描かれている。


終盤に向け、黒田にとって散らばっていたいろいろな不安要素が、一本の縄を綯うようにひと筋に収斂していく。このあたりのストーリーの運びはなかなかうまい。俳優陣もそれぞれの持ち味を発揮しており、気軽に見られる娯楽作となっている。


あえて言えば、ゴルフ場などのロケ以外はほとんどがセットでの撮影のため、もっと屋外撮影を入れたほうがよかった。あるいは、あまりそのようにすると、「虚構としての重み」がかえって半減すると考えたのだろうか。あくまでも架空の話であるからには、セット中心のほうがいいと思ったのだろうか。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。