書評 大下英治『小池百合子の大義と共感』

本書は、2020年7月11日初版発行であるが、新宿紀伊国屋書店店頭で手に入れることができた。小池百合子について、28年間に及び、取材を続けてきているルポライター大下英治(76歳)の著書である。

小池本人からの直接取材を中心に、その裏付けとなる周辺取材により、小池の生い立ちから、直近のコロナ対策、都知事選立候補までを網羅している。章立ては以下のごとく11章、397ページに及び、厚さ2.4cm、四六判の図書である。


序章  小池都知事直撃!「東京」再構築

第一章 東京、新型コロナとの闘い

第二章 小池百合子の源流

第三章 通訳からキャスターへ

第四章 華麗なる転身の先

第五章 権力の階段

第六章 生き馬の目を抜く

第七章 崖から飛び降りる覚悟

第八章 破竹の都民ファーストと同床異夢

第九章 「東京」デジタルトランス戦略

終章 小池都政の現在、東京のゆくえ


小池百合子を、比較的間近で見てきただけあって、一般のニュースでは知ることのないエピソードなども盛り込まれており、興味深く読ませてもらった。


それぞれの人生の岐路において、悩みつつも大いなる決断をし、実行に移す小池の姿勢が、よく現されている。小沢一郎、小泉純一郎らとのかかわり、トルコ風呂という名称の廃止、環境大臣、防衛大臣当時の出来事、自民党総裁への挑戦など、都知事選への立候補、都連自民党との確執、都民ファーストの設立などは、リアルタイムで見てきた我々からしても、あらためて整理して書かれていて読みやすい。


コロナ対策については、東京都医師会会長の尾﨑治夫の助言を得、さらに一緒になって間断なく取り組んでいくようすや、ヤフー株式会社元社長・宮坂学を副知事に据え、コロナ後の都市生活のありかたを「密から疎へ」と模索するプロセスや、東京都におけるSociety5.0の推進にも触れている。


「政党というのは機能体であって、運命共同体ではない」

これは、時々小池が口にしてきた言葉である。

国政の場において、勘のよさ、ワイルドな思考と実行力、アラブ世界とのつながり、通訳時代を通じての人脈の広さを活かし、かなり生真面目に活躍してきた小池百合子にとって、東京都知事の仕事は、やることも多いかわりに、とてもやりがいがあるようだ。本人も否定しているように、国政への復帰は、まずないだろう。直接、自らの判断で指揮差配できる知事という仕事に向いているとの自覚を垣間見る。


現在は、弁護士となった若狭勝の言葉に、小池百合子の一面を知ることができる。

「目の前に困難な問題が立ちはだかると、小池さんは、平時よりもずっと、生き生きとエネルギッシュに見える。」


タイトルの言葉は、文中にも数回出てくる。すなわち、大義があっても、それだけでは足りず、人々の共感を得て初めて、その政策は実効力をもって実現される、ということだ。


都知事立候補に合わせて出版されたともとれる本書発売のタイミングだが、いままでの小池百合子という政治家の軌跡と、今後しばらく都政の舵取り役をまかされるだろう人物の人となりを、そのキャリアから見直すには、手ごろな本だと思う。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。