監督・脚本:伊丹十三、撮影:前田米造、照明:桂昭夫、美術:中村州志、編集:鈴木晄、録音:小野寺修、音楽:本多俊之、主演:宮本信子、山崎努、津川雅彦、1987年、127分、配給:東宝
税務署に勤める板倉亮子(宮本信子)は、日々、脱税に目を光らせる仕事に専念していた。ある日、ラブホテルを経営する権藤商事の納税額が低調なことを知り、タオル納品業者などから裏付け調査を始め、経営者の権藤英樹(山崎努)の自宅にも任意の調査に入った。
権藤は、関東蜷川組という暴力団の組長、蜷川喜八郎(芦田伸介)と懇意で、儲け過ぎたときは、税を逃れるため、蜷川からカネを借りたことにする、といった手段を使っていた。
人事異動で、国税庁査察部に栄転した板倉は、上司・花村(津川雅彦)の下で家宅捜索などの手伝いをしていたが、あるタレコミ電話により、権藤商事の脱税調査に着手することになる。・・・・・・
公開以来、何度観たことだろう。たかがラブホテルの脱税を扱った低次元の映画だ、といった酷評もあったなかで、『お葬式』(1984年)に次いで、現在まで人気を保っている作品だ。『お葬式』同様、伊丹十三らしいウィットの効いた作品だ。
板倉と権藤の対決を軸とし、それぞれの住む世界を交互に映すことで、観る側を飽きさせず、ストーリー展開に牽引力をもたせている。板倉が査察部に配属になってから、権藤との対立が際立ってくる。権藤邸では、権藤との息子も登場し、内縁の妻、杉野光子(岡田茉莉子)含め、権藤の私生活のようすも描かれていく。
脱税している人間の家や会社を探すシーンなどが挿入されることで、後半に向け、はずみがつく。小学生のランドセルに通帳を隠したり、植木鉢の中から印鑑が出てきたりするシーンは滑稽だ。そして、脱税者は、はたから見れば、こうした滑稽なことを実際に行なっているのだ。特に、パチンコ屋の社長(伊東四朗)と板倉のやりとりのシーンは、直接ストーリーに関係のない挿入シーンとしては秀逸だ。
本作品には、多くの登場人物がある。芦田伸介、岡田茉莉子をはじめ、小沢栄太郎、大滝秀治、小林桂樹、室田日出男、小坂一也、杉山とく子ら名の知れた俳優が多く出演しているのはうれしい。絵沢萠子の登場シーンも、直接本筋に関係ないのだが、そこだけ挿入される独立したシーンだけに、締まったシーンを作らなければならない。ポルノ出身の女優らしく、大胆な脱ぎっぷりやスクリーン上の迫力はさすがである。
冒頭はじめ、随時鳴る4分の5拍子・ニ長調の音楽も効果的だ。
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