監督・脚本・原作・撮影・編集:新海誠、主な声の出演:吉岡秀隆、萩原聖人、南里侑香、音楽:天門、2004年、91分、配給:コミックス・ウェーブ
戦後の架空の日本が舞台。
1996年、日本は、今の津軽海峡で南北に分断されていた。共産国「ユニオン」は、旧北海道を「エゾ」として支配下に置き、その中央に、はるか天にまで届くかと思われるような白い塔を建造した。この塔は青森からよく見えたが、その目的や機能については、誰も知らなかった。
津軽半島に住む中学3年生の藤沢浩紀と白川拓也は、この高く聳える塔に関心をもち、いつかは飛行機で国境を越え、塔まで飛んで行く秘密の計画を立てていた。そのために、ヴェラシーラという二人乗りの飛行機を、山の上の廃駅の格納庫で少しずつ組み立てていた。
浩紀には、恋焦がれているクラスメイトの沢渡佐由理がいた。あるとき、浩紀が口を滑らせ、飛行の秘密を佐由理に知らせてしまう。それを聞いた佐由理は、ヴェラシーラに強い関心をもつ。そして、浩紀と拓也は、「ヴェラシーラが完成したら佐由理を塔まで連れていく」と約束を交わす。
だが、その後佐由理は、浩紀たちの前から、突然姿を消す。佐由理とともに塔まで行くのが夢であった浩紀は、ヴェラシーラの製作を諦め、東京の高校に進学し、孤独な日々を過ごすようになる。一方、拓也は地元の高校に進み、ある大学の研究室の外部研究員となった。そこでは、「ユニオンの塔」の「平行宇宙」についての研究が行われていた。・・・・・・
製作に当たり、ほとんどすべてを新海誠が担当し、自身として二作目となる初長編アニメ映画だけに、アニメにもストーリーにも気合いが入っているのが伝わってくる。当時としては、念の入ったキメ細やかなアニメーションや背景画は、観る者を驚嘆させた。いま見てみても、それは変わらない。
その後、芸術性の高いアニメとして、『秒速5センチメートル』(2007年)、『言の葉の庭』(2013年)が発表され、その後は、一気に、大衆迎合化していく。
アニメの描きかたをはじめ、構図・俯瞰、小気味よい演出など、そのときどきの人物の心理にマッチしており、シーンとアニメの質の高さが合致している。内容柄、空がよく出てくるが、同じ青空や雲でも、シーンごとに色分けされ、何度か出てくる濃紺の空色を使うには勇気のいったことだろう。
ストーリーの着眼が興味深く、浩紀と佐由理が互いに思い合う心や、それを言い出すまでに蓄積されるであろうエネルギーを、巨大な塔への飛行と破壊に比例させたことで、ストーリー上メリハリが生まれ、バランスがとれ、且つ、エンタメ性も確保された。
たかだか中学生のもつ恋愛感情を現わすために、ここまで大規模な政治的背景や舞台装置、科学的情報を詰め込む必要があったかと言われればそれまでだが、純粋な愛が、それくらいのエネルギーに匹敵すると仮定したからこそ、これだけの作品となったのであろう。
カタチは異なるが、この<方式>は、その後も受け継がれていき、アニメ映画としての質の高さは『言の葉の庭』において頂点を極めることになる。
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