監督:村野佑太、脚本:大河内一楼、原作:宗田理『ぼくらの七日間戦争』、音楽:市川淳、主な声の出演:北村匠海、芳根京子、2019年、88分、配給:ギャガ、KADOKAWA
北海道のとある旧炭鉱町が舞台。
高2の鈴原守は、歴史ものの本を読むのが好きで、頭脳もそこそこ優秀であるが、クラスメートとは馴染めないような孤立した存在であった。守は、幼いときから、隣の家に住む千代野綾に、密かに好意をもっていた。夏休みに入る直前、綾が、無理矢理父親の車に乗せられそうになっているのを目撃し、守るはとっさに綾の手を引いて逃げ出してしまう。地元の議員である父親が、自分の都合で東京に引っ越すことになったので、いやがる綾も連れて行こうとしたのだった。
一週間後の誕生日は、せめてこの町で迎えたかった、という綾の言葉を聞き、守は、しばらくいっしょに家族から逃げようともちかける。綾は父親に、キャンプに行くと偽り、家出する。綾はクラスメイトを誘い、結果的に、同級生6人で、一週間、町内の山奥にある廃坑で生活することになる。
キャンプ気分を味わっていた6人は、自分たち以外に、マレットというタイ人の子供がいることに気が付く。マレットは、不法滞在者として当局から追跡を受けており、同時に、はぐれてしまった両親を探していた。・・・・・・
アニメ慣れした人から見ると、アクションシーンや表情が物足りないと不評のようだが、ストーリー展開と映像のバランスを考えると、両者の釣り合いのとれた秀作にみえる。
例えば、劇場版『名探偵 コナン』のアクションシーンにおける撮影・編集と、本作品のそれとを比べれば、アニメとしてやや見劣り感があるのは否めないかも知れない。あの作品は、推理ものとしては、物理的にも時間的にもスケールの大きな内容であり、それに見合うアニメーションが、繊細に作られなければ、作品としてのバランスが悪くなるのだ。コナンらの歩くシーン、階段を昇り降りするシーン、飛び回るシーン、瞳の描き方など、徹底的に細やかに描かなければ、規模に見合う作品と言えなくなってしまう。
映画全般を見てきた者としては、本作品は、「その意味で」バランスのとれた作品である。ストーリーは、7日間の高校生たちの奮闘ぶりを日を追って描き、そこには、綾に対する守の恋心も織り込んであり、ある件を契機に暴かれた6人の過去の言動と、その後すぐ訪れる揺り戻しによる新たな世界の共有、など、88分の長さにしては、適切な質と量の内容となっている。廃坑外部からのアクションと、それに対する6人のリアクションを適度に挿入させ、アクセントを置きつつ、ストーリー展開全体にメリハリもつけられている。
映像上、もっとも感心したのは、この規模の作品であるにもかかわらず、背景画が実に丹念に描き込まれている点だ。再度見るチャンスがれば、背景にも注目してみるとよい。坑道の狭く暗いシーンに対比させるかのように、屋上から見た近くの山々の景色は、夏そのものであり、すがすがしい。映像上のメリハリもきちんとつけられているのだ。
マレットが、自分の故郷の言い伝えとして、おまじないの意味をもつ黄色い風船のようなものを銘々が作り、空に上げる。暗い廃墟のつづくシーンのなかに、突然現れる黄色い映像は、新鮮で、たしかにそれ自体、希望の象徴のようだ。
この黄色い風船は、ラスト近くでも活かされ、守の案で作られた気球を見守るように、天に向けてともに昇っていく。
7日間の<戦い>に、マレットが入ったことで、6人が誓う「自分らしく生きると決めた」ことや、「ここが、スタートラインだ」という決意に、さらに力が込められた。そのマレットは両親と会うことができ、物語としては、大団円に終わる。
観終わって、観てよかった、と思う作品だ。
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