かわいい、とは何か


10年前から、「かわいい」という言葉を、総体的に定義しようと試みてきた。


かわいい子、かわいい猫、かわいい花、かわいいマスクなど、「かわいい」という形容詞は、人物のみならず、物にも使われる。

ところが、かわいい花、とは言っても、かわいい萼(がく)とは言わない。かわいい口、とは言っても、かわいい髭とは言わない。かわいいスズメと言っても、かわいい鷲とは言わない。また、年増の女から若い男を指して、かわいい男、と言うこともある。


世間で最もよく頻繁に使われる言葉こそ、定義しようとなると難しい。一度書いてみてから、折に触れ、加筆訂正を繰り返してきた。今後も、それは続くであろうが、目下のところ、「かわいい」の定義は、このようになった。


初期においては実体として存在し、それ自体がそれをかかえる背景全体に対し、明確に区別される一部分を構成し、相対的に、面積として小さく、重量感として軽く、出現からの時間経過として短く、一部または全体に曲線または丸いシルエットを含み、白あるいは淡い色かそれらの混合する色合いや柄を基盤にもち、以上から、これに対する者に、本能的に、純潔なイメージを植え付け、脆弱な客体であろうとの思いを抱かせ、反射的につい手を差し伸べて守ってあげなければならないと思い込ませ、少なくとも最初の印象において、受動的追従的付随的価値を任意に付与してしまわざるを得なくなり、それゆえ支配可能と錯覚させるさま。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。