監督:ジョン・フランケンハイマー、脚色:ルイス・ジョン・カルリーノ、原作:デイヴィッド・イーリー、撮影:ジェームズ・ウォン・ホウ、編集:フェリス・ウェブスター、美術:テッド・ハワース、音楽:ジェリー・ゴールドスミス、タイトルデザイン:ソウル・バス、主演:ロック・ハドソン、1966年、103分、原題:Seconds
邦題では、「アーサー・ハミルトンからトニー・ウィルソンへの転身」というサブタイトルが付いている。原題は、Seconds と複数形であることに注意したい。
銀行の幹部役員アーサー・ハミルトン(ジョン・ランドルフ)が列車に乗ろうとすると。いきなり見知らぬ男にメモを渡される。そこには、ラファイエット通り34番地と書いてあった。翌日、その場所に向かうと、クリーニング屋であり、さらに指示を受けて別のところに向かうと精肉の解体場であったが、案内されてビルに昇ると、不審なへやがいくつもあり、ある一室で責任者が来るのを待つことになる。
実は、昨晩以来、チャーリーと名乗る男からの不審な電話が二度あり、ここに来たのであった。そこは、最先端の技術をもって、整形手術などを施し、いまある人物を、全く別の人間に生まれ変えさせることを業務としている秘密の組織であった。いろいろ躊躇したものの、アーサーは手術を受けることにする。アーサーは、ホテルでの火災で死亡したことになる、という。
手術は成功し、アーサーとは全く別人のトニー・ウィルソン(ロック・ハドソン) という男に生まれ変わる。趣味も絵描きということになり、 組織の用意した海辺の豪華な邸宅に引っ越す。そこには、年配の男の使用人ジョン(ウェズリー・アディ)までおり、アトリエには、たくさんの絵画やキャンバスも用意されていた。
トニーは、不慣れで不安な日々を過ごすうち、海岸で、ノーラ(セローム・ジェンス)という中年の女性と出会う。・・・・・・
結局、転身を後悔し始めたトニーは、邸宅を抜け出し、アーサーの知人のふりをして、実家に行く。居間には、アーサーの写真が飾られており、何も知らない妻は、トニーに、今の心情を話す。トニーは、改めて手術を受けて、元のアーサーに戻ろうとするが、再手術には、新たな転身希望者を紹介しなくてはならない、と言われる。これを拒否したトニーは、手術の順番が早く来たと知らされ、ストレッチャーに拘束されるが、その運ばれる先には、死が待っていた。
顔の手術のシーンがあるなど、和が娘の顔面手術をテーマとする『顔のない眼』(1959年)を思い出させるが、内容的にはむしろ、安倍公房の『他人の顔』(映画化は1966年)に近い。
全編シリアスで、パーティのシーンなど、人物は大いに笑っているが、観ているこちらとしては、ほとんど笑えない。それは実は、トニーも同じで、酒に酔ってはしゃぎ回るしか、気分を晴らすことができないのである。
変身してみたものの、予想とは逆に、生きにくく、息苦しさを感じる。手術を受ける際にも、喜び勇んでいたわけではなく、迷いに迷った挙句の選択であり、結果的には、後悔のどん底に突き落とされるのである。
当時のアメリカ映画の脇役たちが多数登場するので、その点では楽しいが、内容的には、いろいろ考えさせられるテーマである。
ジェリー・ゴールドスミスの音楽、ソウル・バスのタイトルやオープニングは効果的である。ワイン祭りのシーンは、本作品で唯一、開放的なバカ騒ぎを見られるシーンである。そこでもトニーは、なかなか人々に馴染めないのである。
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