映画 『戦火の馬』

監督:スティーヴン・スピルバーグ、脚本:リー・ホール、リチャード・カーティス、原作:マイケル・モーパーゴ『戦火の馬』、製作:スティーヴン・スピルバーグ、キャスリーン・ケネディ、撮影:ヤヌス・カミンスキー、編集:マイケル・カーン、音楽:ジョン・ウィリアムズ、主演:ジェレミー・アーヴァイン、2011年、146分、原題:War Horse


第一次世界大戦の始まる前のイギリス山間部の村から、ストーリーは始まる。

小作農の子アルバート(ジェレミー・アーヴァイン)は、近くの牧場で、馬の出産するところを見る。この馬は、村で行われる馬の競りに掛けられる。競り落としたのは、何と父テッド(ピーター・マラン)であった。競りの相手は、地主のライオンズであったが、彼に負けまいとする意地だけから、高額で落としたのであった。

馬といっしょに戻ってきたテッドを見て、妻ローズ(エミリー・ワトソン)は憤る。この馬は、耕作には向いていない馬であることは、誰の目から見ても明らかだった。アルバートは馬が戻ってきたのを喜び、自分が調教して、耕作に役立つようにする、と母に言った。アルバートはこの馬に、ジョーイと名付けた。アルバートの努力の甲斐あって、ジョーイは鍬を引き、荒れ果てた農地をよく耕し、野菜の収穫も進んだ。

戦争が近くなり、使える馬は、軍に供出しなければならなくなり、ジョーイも他の馬同様の運命に従わざるを得なかった。アルバートも、そうした現実を受けとめるが、直接ジョーイを買った若い軍人ニコルズ大尉に対し、自分がここまで育てた馬なので大事に扱ってくれ、と頼み、テッドが騎兵時代に使い、ローズが保管していた三角旗を、ジョーイの馬具に結び付けるのであった。・・・・・・


何しろ、カネがかかっている映画だというのは、見ていてわかる。製作費6600万ドルは、日本円で、約71億2800万円だ。多数の馬や出演者、エキストラ、ロケハン、武器や大砲、戦場や兵站など、実に大がかりだ。馬についても、ジョーイの成長ごとに馬を用意せねばならず、ジョーイと<意思疎通>する相棒の黒い馬の調達やその調教にもかなりの費用がかかっただろう。この調教の行き届きぶりには恐れ入る。


ストーリーは、戦地に赴いたジョーイの物語となっており、行く先々でいろいろな人物と出会い、終盤、戦地を無謀に走り続けて有刺鉄線に引っかかったところを、付近に陣を張っていたアルバートの友人が見つけ、救護所に連れて行かれる。同じく戦闘に駆り出され、負傷してそこにいたアルバートと、めでたく再会することになり、戦争も勝利に終わる。


146分の映画でスピルバーグが描き出したかったのは、戦争反対物語ではなく、あくまで、アルバートとジョーイの再会である。いわゆるお涙頂戴の内容でもなく、再会というハッピーエンドに向けての心温まる話である。


冒頭から折に触れ挿入される景色は、まことに美しい。室内セットの部分はほとんどなく、あっても、かなり広いセットを用意している。シンプルなストーリー展開で、心理ドラマでもなく、子供から大人まで、男性女性にとらわれず、多くの人に感動を呼ぶような一般受けするつくりになっている。アカデミー賞7部門にノミネートされるなど、注目を集める作品となった。


あまりにも平穏な展開で、ストーリーとしても入り組んでおらず、サスペンスの要素も戦闘の激しさも感じず、クセのある映画を期待すると、裏切られるだろう。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。