映画 『スルース』

監督:ケネス・ブラナー 、脚本:ハロルド・ピンター、 原作:アンソニー・シェイファー、舞台劇『探偵スルース』、撮影:ハリス・ザンバーラウコス、、編集:ニール・ファレル、音楽:パトリック・ドイル、主演:マイケル・ケイン、ジュード・ロウ、2007年、89分、原題:Sleuth(=探偵)


ジョセフ・L・マンキウィッツ監督の『探偵スルール』(1972年、135分)のリメイク版。マイケル・ケイン、74歳、ジュード・ロウ、35歳のときの作品。


小説家アンドリュー・ワイク(マイケル・ケイン)が住む、ロンドン郊外の近代的大邸宅に、俳優マイロ・ティンドル(ジュード・ロウ)が訪れる。ティンドルは、ワイクの妻マギーの愛人であり、ワイクに、マギーと離婚してほしいと言いに来たのだった。

マギーと別れるつもりはなかったが、その真意を隠し、ワイクは、ティンドルに、ある提案をする。すなわち、実はもう妻には飽き飽きしている、だからティンドルが妻を連れて逃げてもいい、だが無一文に近いティンドルが妻を養うのは難しい、そこで、この屋敷にティンドルが侵入し、時価100万ポンドの宝石を盗み、自分の知る故買屋に売れば、80万ポンドが手に入る、そして妻とどこかで暮らせばいい、自分はその宝石に掛けている保険金を受け取れば満足だ、といった内容であった。

ティンドルは承知し、すぐにこの作戦は始まる。・・・・・・


約90分の映画は、ほぼ3分の1ずつに区切られる。

ティンドルがワイクに裏切られたことを知るまで、事件を聞いて、一人の刑事がワイクを訪れ、事実について詰問し、ワイクが本当のことを認めるまで、実はその刑事が変装したティンドル自身であり、勝敗が一対一となったところで、さらにワイクがティンドルに、ある提案をし、悲劇の結末を迎えるまで。


元々、舞台劇であるので、会話を中心とした進行となり、二人が会話するシーンでは、話している者が画面に映り、話してない者は映らない、というカットが多い。

そのためにも、それ以外のシーンは、映画の観客を飽きさせないため、充実させる必要があったのだろう。ワイクの住む家は、極めて近代的・現代的で、高機能の監視カメラが何台もあり、広間のど真ん中にエレベーターもあり、リモコンでドアの開閉や照明の種類、照度を選択・調節できるようになっている。宝石の入っている金庫も、手前にある水槽をリモコンで下げると、壁に現れる。


ジュード・ロウの変身ぶりに驚くと同時に、美形のロウを最大限に美しく撮られているカットもある。その美しさにほだされて、最後には、ワイクの提案により、そういう展開に終わるのか、と思わせながら、やはりティンドロは、どうしようもない女ったらしでしかなかった。そんなティンドロは、マネキンに着せてあったマギーのコートを着たまま、逆上したワイクに殺され、エレベーターの底に転落する。転落死したティンドロの姿は、赤と青のライトも入れて美しく、これがそのままラストシーンとなっている。


会話劇の映画化という宿命ゆえの退屈さを感じないわけではないが、それを承知の上での息つくひまを与えない巧妙で迅速な展開が見ものである。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。