映画 『スキャナーズ』

監督・脚本:デヴィッド・クローネンバーグ、製作:クロード・エロー、撮影:マーク・アーウィン、編集:ロナルド・サンダース、特撮:ゲイリー・ゼラー、音楽:ハワード・ショア、特殊メイク:ディック・スミス、主演:スティーヴン・ラック、マイケル・アイアンサイド、1981年、104分、カナダ映画。原題:Scanners


『ザ・フライ』(1986年)で有名なデヴィッド・クローネンバーグの出世作。音楽は、『羊たちの沈黙』(1990年) 、『依頼人』(1994年)、『セブン』(1995年)などで知られるハワード・ショア。


薄汚れた格好をしたキャメロン・ベイル(スティーヴン・ラック)は、ある日、ハンバーガーショップで、客の食べ残したハンバーガーを食べていると、近くに座っていた婦人客に、軽蔑のまなざしで睨まれたので、逆に、彼女を見返した。すると、婦人はもがき苦しみ、卒倒してしまう。ベイルは、これを目撃していた二人組の男たちに、その場で麻酔銃を撃たれてしまう。

目覚めると、ある施設の中であることがわかった。ベイルは、そこが、要人警護のための国際的警備保障会社コンセック社が設立した研究所で、超能力者(スキャナー)を作り出していることを知る。研究者のルース博士(パトリック・マクグーハン)によると、ベイル自身もスキャナーであるとのことだった。

ベイルはルースから、同じスキャナーのレボック(マイケル・アイアンサイド)を抹殺してほしいと頼まれる。レボックは、スキャナー達を集結させ、世界征服を企てるタイプの破壊的スキャナーだという。・・・・・・


39年前の映画であることを考慮したとき、褒められる点とそうでない点とがはっきりする。

頭爆発や、ラストでの兄弟スキャナー同士のスキャンの相撃ちシーンは、当時の技術を推察してもなお、かなり凝っており、映像化の努力が偲ばれる。

一方、映像とは関係なく、ストーリー展開という点では、極めて凡庸であり、メリハリがなく退屈である。


SFホラーというジャンル分けはどうでもいい。ホラーとして観れば、映像上、物足りないのは明らかだが、SF作品と見るなら、アイデアもよいし、一定の評価はできる。

ところが、映画作品として、エンタメ性がない。

映画におけるエンタメ性とは、つまり、文字通り、映画としての楽しさである。それが、シリアスなドラマであれ、サスペンスであれ、どのようなジャンルの映画であっても、映画であるからには、エンタメ性がなければ、おもしろくなくなる。


監督が、撮影や主演を兼ねる場合は、あまり起きないことだが、脚本を兼ねると、うまくいくか、失敗するか、のどちらかになる。これは、邦画において、あらゆるジャンルの作品において、言えることだ。

本作品も、脚本がまずいので、せっかくのアイデア勝負の映画が、台無しになっている。

ストーリーはあり、クローネンバーグなりに丁寧な展開を試みたのはわかるが、それは机上の論理であって、映画としてはまた別なのだ。


シーンからシーンへの転換にもどかしさを感じるし、なぜまたそのシーンを入れるのか、と疑問にも思う。あるいは、ここは飛ばしてもいいのでは、というシーンも多い。

脚本を兼ねた監督の指示だろうから仕方ないが、カメラも稚拙である。いま、この人物は、どういう大きさのへやにいるのか、また、個別に映る複数の人物が、明らかに同じ室内にいるのに、どういう位置関係にいるのかわからない、など、演出の力量不足が露骨に現れている。


尺を90分にしてでも、もっと締まった映画にしたほうがよかっただろう。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。