映画 『オリーブの林をぬけて』

監督・脚本・製作・編集:アッバス・キアロスタミ、撮影:ホセイン・ジャファリアン、歌:ピンク・フロイド、ドメニコ・チマローザ、録音:マハムード・サマクバシ、Y. Nadjafi、主演:ホセイン・レザイ、モハマッド=アリ・ケシャヴァーズ、1994年、103分、イラン映画、ペルシア語、原題:Zir-e Derakhtan-e Zeytoon


映画監督(モハマッド・アリ・ケシャヴァーズ)は、テヘランから遠く離れた小さな村で、娘役を選ぶため、助監督のシヴァ(ザリフェ・シヴァ)を伴って、たくさんの娘たちに話しかけている。

主演はタヘレ(タヘレ・ラダニアン)という娘になり、シヴァが迎えに行くと、注文した田舎服ではなく、友達から借りた都会の服を着て出たいと言い張る。撮影現場では青年役が女の子と緊張して話せないため、代わりに撮影キャンプにいる雑用係のホセイン(ホセイン・レザイ)を抜擢する。しかし撮影を再開すると、今度はタヘレの様子がおかしくなり、再び撮影は中断される。

ホセインは監督に車の中で、大地震の前日に彼女にプロポーズして断られていることを話す。シヴァの計らいでようやくタヘレが出演することになり翌日から撮影は続行されることになる。・・・・・・


『友だちのうちはどこ?』(1987年)、『そして人生はつづく』(1991年)に続く、「コケール・トリロジー」又は「ジグザグ道三部作」の最後となる作品。

『友だちのうちはどこ?』に出演したババク・アハマッドプールとアハマッド・アハマッドプールも、撮影に使う鉢植えを運ぶ役で出ている。7年が経過し、二人とも背が伸び、立派な15歳に顔立ちになっている。

『そして人生はつづく』の主演、ファルハッド・ケラドマンも、俳優役で出ている。


三作目ともなると、「キアロスタミの映画」として観るようになり、多少、セリフが多いシーンや、車での移動シーンが多くなっても、あまり退屈とも思わず、慣れてくる。

本作品では、タヘレに対するホセインの真摯な情熱が伝わり、ラストシーンでは、オリーブの林のなかを早足で歩いて去るタヘレを、ホセインがどこまでも追いかけ、途中で何がしか話したあと、ホセインがこちらに帰ってくるところでエンディングとなる。

ここは、山の上から、大草原の中を歩く二人を、山の上から定点で俯瞰して撮っているので、二人はほとんど点のように見える。

最期に<愛の約束>をしたでろう二人は、アップで映さず、観客の想像にまかせるようにして、ハッピーエンドとしたのであろう。


キアロスタミは、小津安二郎の信奉者であるから、会話シーンであっても切り返しショットが頻繁に使われる。あれは、和室などのあまり広くない空間で効果的であるが、車内ではいいとしても、屋外で頻繁に使われると灰汁(あく)が強いと感じる。

空気感として、同じ暑い気候の地域でも、乾いた土地柄が舞台であるので、じめじめした印象はもたないのだが、カメラワークがいつも似たような手法であり、機材を使いにくい場所が多いとはいえ、もう少しくふうがあってもよかった。


音楽は、オープニングに、ピンク・フロイドの『タイム』、エンディングには、ドメニコ・チマローザの『オーボエのための協奏曲』が使用されている。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。