映画 『恋は緑の風の中』

監督:家城巳代治(いえき・みよじ)、脚本:いえきひさこ、撮影:佐藤昌道、照明:飯塚茂、編集:堀江貞子、録音:加藤一郎、美術:横井君夫、音楽:アリス、主演:佐藤佑介、原田美枝子、協力:埼玉県深谷市、1974年、93分、東宝。


脚本のいえきひさこ(家城久子)は家城巳代治の妻。家城巳代治の遺作となった。

原田三枝子(当時16歳)のデビュー作。佐藤佑介(当時15歳)は、1997年ころ芸能界を引退している。


埼玉県深谷市が舞台。

愛川純一(佐藤佑介)は、父(道夫、福田豊土)母(夏子、水野久美)と暮らす、すくすくと育つ中学2年生。純一は、仲間と無邪気に中学生活を送るいっぽう、思春期特有の性の目覚めのさなかにあった。そんなある日、同学年の松島雪子(原田美枝子)の存在が気になりだす。・・・・・・


もうお目にかかれないと思っていた映画が、去年春に、DVDで発売され、今ではレンタルショップに並んでいる。ありがたい。


なぜか印象に残る映画で、今度観て、だいぶ忘れているところがあることに気付いたが、ポイントになるところやセリフは覚えていた。


中学生男子の性への目覚めを、決していやらしい演出を使わず、まっすぐな中にも甘酸っぱいものとして描いたところはさすがである。

男の佐藤佑介は、風呂上りに、両親の前で全裸になるシーンがあるが、原田美枝子も胸をはだけるシーンがあり、当時高校1年生としては度胸のある女の子であったと言える。その度胸と演技力で、これ以降、さまざまな著名な監督の映画に出ることになる。


雪子は、家庭の事情で、遠くに転校せざるを得なくなり、それを知った純一は、雪子をここに残すため、廃工場の一部にある建物をきれいにして、そこに雪子を住まわせようとする。仲間も協力もあり、物置のような汚かったへやが、少女が住んでもおかしくないようなへやに、仕立て上げられる。

だが、噂を聞いたそれぞれの生徒の母親や教員が、これをやめさせる。それでもなお、生徒たちは、雪子のため、という一心で、へやをきれいに飾り付け直した。

まさに、中学2年生らしいお伽噺のような発想だ。


雪子はそこに連れて来られ、皆に感謝はするが、やはり家のことを考えると、転校せざるを得ない、と話す。純一はそれを聞いて、ひとり川端を歩くが、いつの間にか、川の反対側には雪子がいて、同じ向きに歩くのであった。

このシーンには、途中で雨を降らせているが、これは見た通り、撮影用の雨である。ただ、このシーンに雨を降らせた演出は好感をもてる。

BGMを絞り、雨音を大きくし、二人がそれぞれ、違う道を歩んでいくかのようにして、さっと映画は終わる。


昭和49年の映画であり、中学生男女の普段着、持ち物、マスコット、八百屋、駅前、濃縮の果汁を薄めて飲むジュース、プッシュホンなど、内容以外にも、観ていて懐かしいものが、たくさん出てくる。

主題歌をアリスが歌っている。


こういう思春期の男女の描き方もある、ということを、今の映画監督らはもっと勉強すべきだろう。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。