映画 『グランド・ホテル』

監督:エドマンド・グールディング、脚本:ウィリアム・A・ドレイク、原作:ヴィッキイ・バウム『ホテルの人びと』、撮影:ウィリアム・ダニエルズ、編集:ブランシェ・セルウェル、音楽:ウィリアム・アックスト、チャールズ・マックスウエル、主演:グレタ・ガルボ、ジョン・バリモア、ジョーン・クロフォード、1932年、112分、MGM、原題:Grand Hotel


いわゆる「グランドホテル方式」の名前の由来となった映画。

人生の交差点にさしかかった5人の男女が織り成す人間模様を、それぞれのかかわりと新たな生き甲斐の発見を通じて描く古典的作品。


落ち目のバレリーナ、グルシンスカヤ(グレタ・ガルボ)、泥棒稼業で女たらしの自称男爵(ジョン・バリモア)、速記者フレムヒェン(ジョーン・クロフォード)、自分の会社が経営危機にあり、フレムシェンをホテルに雇ったプライジング(ウォーレス・ビアリー)、プライジングの会社の元従業員で、余命わずかなクリンゲライン(ライオネル・バリモア)が、ベルリン随一の豪華ホテルで、仕事や知り合ったことをきっかけに、自分自身のこれからを見つめていく群像劇。

これに、医師で顔半分に傷のあるオッテルシュラーク(ルイス・ストーン)と、チーフポーターのセンフ(ジーン・ハーシォルト)が、脚本上の締めの役割をもって加わる。

ジョン・バリモアはライオネル・バリモアの弟で、ドリュー・バリモアの祖父。


複数の登場人物の人間模様を交互に描いていく手法を、この映画の描きかたから「グランドホテル形式」と呼ぶようになった。

5人のなかでは、男爵の描きかたが興味深い。グルシンスカヤから真珠を盗むのに成功したにもかかわらず、グルシンスカヤの悲しみに触れると、正直に泥簿であることを告白して、さらに彼女を励ましたり、ゲームが終わりクリンゲラインが財布を探し出すと、自分がくすねたにもかかわらず、財布を返したりする。おまけに、唯一殺されてしまう。


気の利いたセリフを散りばめ、ホテルの広いへやと吹き抜けの廊下、ホテルの受付と回転ドアの入口といった限られた設定のなかに、5人の人生と思惑、そして愛がからまる。

背景にたまに流れる「美しく青きドナウ」やラフマニノフのメロディが雰囲気を盛り上げる。


やや大仰な演出も目立つが、空間処理がうまい。それぞれのキャラクターがわかりやすく、ストーリーもシンプルに徹している。

真の主役であるグランド・ホテルという空間で繰り広げられる人間模様の行方は、決して定まったものでもない。それは不幸ばかりに向かうだけではないが、ラストに駆け込んでくる幸せ絶頂の新婚カップルもあるものの、必ずしも決定的な人生のハッピーエンドに向かうものとも限らない。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。