映画 『休暇』

監督:門井肇、脚本:佐向大、原作:吉村昭「休暇」、撮影:沖村志宏、編集:金子尚樹、照明:鳥越正夫、美術:橋本千春、音楽:延近輝之、主演:小林薫、西島秀俊、大塚寧々、2008年、115分、 リトルバード。


刑務官の平井(小林薫)は、独身で、6歳の男の子のいる美香(大塚寧々)との結婚が近づいてきていた。有給休暇を使い切っていたので、新婚旅行に出かけるのは諦めていた。

職場の刑務所では、金田(西島秀俊)の死刑執行が決まる。支え役(執行時、絞首した死刑囚が落下したとき、下にいて体を押さえる役)をした刑務官には一週間の休暇が与えられるため、平井は自ら支え役を志願する。・・・・・・


同監督の『棚の隅』(2007年)は、かなり出来がよかっただけに、こちらの出来は残念だ。

冒頭から、平井、美香、美香の連れ子3人の新婚旅行の光景が現れ、その後も、金田の死刑執行と交互に、旅行のようすが描かれる。


新婚旅行中になっても金田が美香の前夫のことを尋ねないので、美香が気にするが、直前に親しい死刑囚の死刑執行をしたことと合わせ、その意味でも、過去は関係ないことと言う。

このこと以外にも、金田の過去も何も語られず、妹が面会に来ても、二人は終始無言である。


新婚旅行のための一週間の休暇をほしいがために、進んで支え役を引き受けた平井の心中がテーマであるはずなのに、その部分がほとんど見えないのだ。でなければ、死刑執行の刑務官らの任務と、平井という刑務官の私的事情という、本来異質なものを、同時に描くことはない。


原作を充分に脚色できなかった脚本に問題があるし、それを引き受けた監督のどこか勘違いした製作意図と演出に原因がある。

西島はじめミスキャストだらけで、金田の両親らしき黒い影が突然金田の独房に現れるなど理解しにくいシーンも多く、この監督にはまだオーバーキャパシティだったのではないか。



日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。