監督・脚本:ポール・ハギス、原案:マーク・ボール、ポール・ハギス、撮影:ロジャー・ディーキンス、編集:ジョー・フランシス、音楽:マーク・アイシャム、主演:トミー・リー・ジョーンズ、シャーリーズ・セロン、スーザン・サランドン、2007年、121分、原題:In the Valley of Elah(エラの谷で)
元軍人のハンク(トミー・リー・ジョーンズ)のもとに、息子マイクが行方不明という連絡が入る。マイクはイラクの戦闘から帰還したばかりで、もうすぐ自宅に戻るはずだった。
ハンクは妻(スーザン・サランドン)を残し、軍の基地に単身向かう。軍にはすでに縁故のないハンクは警察に行き、女性刑事(シャーリーズ・セロン)に捜索を依頼するが、行方不明の軍人の捜索は軍がやることと一蹴されてしまう。その頃、警察に殺人事件の一報が入る。・・・・・・
シドニー・ルメットを思わせる社会派ドラマ。
一見サスペンスにも見えるが、それだけに終わらず、サスペンスの謎解きを通じて、作者の意図がうまく伝えられている。
ストーリーの中心に幹があり、そこから枝分かれしたエピソードから成っていて、わかりやすい。 わかりやすさは裏返せば単調さになりうるが、カメラと編集がその危険性を回避している。
ハンクが訪れたマイクの宿舎のへやは、几帳面に整理整頓されているが、マイクを探すうちに、戦争を境に今まで知らなかったマイクを知らざるをえなくなる。
散りばめられたさまざまなトピックが無駄にならず、終結に向けて生きているし、息子やその仲間が、戦場の第一線にいたことで、いかに正常な感覚が歪んだものに変わっていくかを、誠実なストーリーと映像で描写してくれる。
淡々と描かれることで、かえって、戦場にいる若い兵士の心理的異常を浮き彫りにしている。
直接の犯人らしきマイクの同僚の自供が、ひたすらノーマルに平然となされるシーンに、異常をかかえたまま帰還した兵士の心の現在を見て愕然としてしまう。
しかし、よく観てると、それでも真の犯人はわかりづらい。わからなくてよいのだ。誰もがマイクになり犯人になりうるからだ。そして、犯人探しだけがこの映画のテーマではない。
マイクのいたへやに、まだ幼い顔つきの新人の兵士が入ってくるシーンも効いている。
原題は「エラの谷で」で、ストーリー中、ハンクが女性刑事の息子に話すたとえ話に出てくる。
メッセージ性をもちながら、傲(おご)ることなく誠実かつ丁寧に作られた作品だ。
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