監督:五社英雄、脚本:笠原和夫、製作:奥山和由、撮影:森田富士郎、編集:市田勇、音楽:千住明、主演:萩原健一、三浦友和、1989年、114分、 松竹富士。
映像も美しく音楽も美しいがそれだけである。226事件に題材を取っただけの、ふやけて肥大した桃のような映画である。
これが『鬼龍院花子の生涯』(1982年)や『極道の妻たち』(1986年)を撮った五社英雄の監督作品とは驚きである。確かにそれらしい雰囲気はあるものの、凄みやリアル感に欠け、監督贔屓の美学映画に終始してしまっている。
金がかかってるのは、豪華なセットや俳優の布陣でもわかる。それら俳優陣はみな、きっちり演技しているのだが、おそらく当のその俳優たちが、実は腹の底ではこの映画には批判的なのではないだろうか。
登場人物、特に参謀らの官位・氏名がほとんど出ないが、これは主役が事件を起こした青年将校らにあり、また、事件を追うよりも、当時の青年将校らの熱血と感傷に比重を置いたためであろう。
それでもなお、全編にわたり、ストーリー展開も映像技術も、すべてを平均的に描こう・使用しようとする意図がみえてしまい、映画におけるテーマ性が消え去ってしまっている。
年齢を重ねてくると、先の戦争に触れておきたくなるのはよいと思うが、ここまできて少女趣味のような映画を出してくるとは、かわいらしさというより見苦しい。黒澤明でいえば『夢』(1990年)と同じである。
全体にさらりと226事件を描き、あとで観客に考えさせる映画だ、などとするレビューもあったが、観終わって正負にかかわらず感動の余韻を残すのが映画であって、考えさせるのはドキュメンタリーの間違いだ。
この映画は226に題材を取りながら、内容・技術いずれも監督のイッヒロマンへと拡散してしまった習作映画である。映画学校の勉強には役立つだろう。
0コメント