映画 『ドライヴ』

監督:ニコラス・ウィンディング・レフン、原作:ジェイムズ・サリス、脚本:ホセイン・アミニ、音楽:クリフ・マルティネス、主演:ライアン・ゴズリング、キャリー・マリガン、2011年、100分、15禁、原題:DRIVE

監督は、この作品でカンヌ国際映画祭監督賞を受賞している。


言ってみれば、西洋版任侠もので、そこが評価されたというなら、カンヌやベネチアは、日本の任侠ものを知らないメンバーが審査員をやっていることになる。まさかそれだけの理由ではないだろう。

受賞はめでたいく後進の励みにもなるだろうが、いわゆる映画づくりに当たっての新機軸が評価されたとするなら、その受賞に大した意味はない。


修理工場で働く孤独な男がいて、車運転のスタントなどもでき、運転の腕はピカ一である。たまに、強盗と組んで、逃げるときの運転手をしてカネを受け取っている。彼はドライバーであって、名前は出てこない。

犯罪に加担する以上、悪人なのだが、修理工場の主も胡散臭く、ドライバーに紹介する男も胡散臭い。


彼のアパートの隣には女と男児がいるが、その夫は服役中である。男児の顔がアラブ系なので、白人の母(キャリー・マリガン)からして、初め違和感があったが、夫が出所してなるほどとなった。

この夫の犯罪がらみで、この母を慕ってしまったドライバーも、否応なく、犯罪やバイオレンスに巻き込まれていく。その後、その夫は殺され、自分の雇い主までもが、犯罪グループのメンバーだったことを知る。

しかし、どんな不利な状況になっても、ドライバーは、この女に塁が及ぶことだけは避けようと、過激な暴力や人殺しまで犯す。


ストーリー展開はこんな感じであり、まさに任侠的であるが、これを、西洋版の任侠ものだからデキが悪い、と切り捨てたくはない。

ドライバーのセリフもかなり削られ、映像でことの次第を進めていくという方法論は、まさに映画は映像なりを地でゆくものとしては評価したい。


ただ、この映画の場合、単に映像をつないだだけで、セリフだけでなく、キャラクター描写も省略してしまっている。

映画には人間が出てくる。それがどんな人物かというキャラ描写がしっかりあって初めて、映像本位の映画になるのだ。

このドライバーという男が、何故そこまで女のために尽くすのかが、こちらに伝わってこない。

そうなるからには、その女をそこまで大切に思うようになったという描写がなければならないが、そのへんまでも、ただの薄ら笑いや沈黙で済ませてしまっていることで、この主人公にほとんど感情移入できないのである。


所詮は人妻であり、刑が終われば夫は出所してくる。夫不在の現在でも、もちろん妻は夫の帰りを、首を長くして待っている。唯一の慰めは、男の子だ。ドライバーは、そういったことは充分承知で、この女に愛着をもつ。

だから、女とドライバー双方が愛し合ったから、というのでなく、ドライバーのほうの生い立ちや性格、過去の遍歴を描写していくことになる。

それがない。


ただ、いつも、能面のように無表情で、突っ立っているだけで、女と対面しているシーンでも、あまり微笑みもせず、うれしそうでもなく、あるいは、そうした表情を浮かべるのにシャイであるとうい演技があるわけでもなく、これがニヒルな男だ、と映像をごり押しされても、観ているほうとしては、唖然としてしまうのだ。

男女のかかわりを描いておくという大前提があってこそ、女の夫が死亡したことについて、彼女に同情し、彼女に頼まれもしないのに、いろいろな復讐に走る、ということが納得できるのである。


最後は、自分も刺されるが、相手の悪党を殺して逃げる。強盗の逃がし屋が逃げる側になっている。逃げていく車を追っていたカメラが、地面にパンすると、悪党の死体のわきに、札束がそのままになっている。

つまり、ドライバーは、カネをほしかったのではない、あくまで、女に対する義理立てだ、と言わんばかりである。


冒頭、タイトルが出るまでに強盗を乗せて走るシーンは、つかみとしてはうまい。カースタントのシーン、車の転落シーン、暴力シーンなど、シーンごとには、みごとにしてエグいシーンもある。

このドライバーに思い入れの深い原作なのだろうが、脚本化する際に、キャラ描写をきちんとしてもらいたいし、それをそのまま映画化するなら、もっと監督の采配が必要だ。


タイトルは Driveであって Driverではない。このタイトルはよかった。Driverだと、もろに運転手だが、Driveなら、いろいろ操る・やっていく、というニュアンスが出る。

キャリー・マリガンは『私を離さないで』(2010年)で有名になったが、セリフを少なくしたこんな映画での微笑や悲しみの表情はうまい。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。