映画 『十二人の怒れる男』

監督:シドニー・ルメット、製作:レジナルド・ローズ、ヘンリー・フォンダ、脚本:レジナルド・ローズ、撮影:ボリス・カウフマン、編集:カール・ラーナー、音楽:ケニヨン・ホプキンス、主演:ヘンリー・フォンダ、リー・J・コッブ、1957年、96分、モノクロ、原題:12 Angry Men


シドニー・ルメット、33歳のときの初映画作品で、ひとりのスラム街育ちの少年の容疑に対し、十二人の陪審員が口角泡を飛ばす議論の末、無罪の評決に至るまでを描く。

ルメットはこれまで、ラジオドラマや舞台に出演したこともある俳優であったが、この作品を境に、社会派の映画監督として多くの作品を監督することになる。テレビドラマの演出を多く心がけてきたこともあり、映画としては初作品であっても、カメラワークや演出ぶりには、すでに熟練味を感じさせる。


全編のうち、冒頭とラスト以外は、12人がいる陪審員室が舞台であり、いわゆる密室劇であると同時に会話劇でもある。

となると、当然、脚本の牽引力に加え、カメラワークの多彩さが必要とならざるを得ず、それに応えるために、俳優も演技力が必要とされる。


12人の俳優陣は、すでに著名な演技達者ばかりで、以下のとおり。

陪審員1番:マーティン・バルサム 

陪審員2番:ジョン・フィードラー

陪審員3番:リー・J・コッブ 

陪審員4番:E・G・マーシャル 

陪審員5番:ジャック・クラグマン

陪審員6番:エドワード・ビンズ

陪審員7番:ジャック・ウォーデン 

陪審員8番:ヘンリー・フォンダ 

陪審員9番:ジョセフ・スィーニー 

陪審員10番:エド・ベグリー 

陪審員11番:ジョージ・ヴォスコヴェック

陪審員12番:ロバート・ウェッバー

これらの俳優は、その後も各ジャンルで活躍している。例えば、同じくルメットの作品でポール・ニューマン主演の『評決』(1982年)には、ジャック・ウォーデンとエドワード・ビンズが共演している。リー・J・コッブは、『波止場』(1954年)でのギャングのボス役で、強烈な印象を残している。


タイトルを含む冒頭の7分以上の長回しから、穏やかに議論が始まっていく。

一級殺人の場合は陪審員全員の一致でなければ有罪と評決できず、一人の男(陪審員8番)が無罪を主張したため、さまざまな証言や物証などについて議論が交わされることになる。

そこには、少年と同じ、スラム街で育った者や、さっさと有罪にして野球を見に行きたい者、偏見に囚われた者、欧州から来た移民で民主主義のすばらしさを自認している者など、陪審員たちのさまざまな横顔や性格も露わになる。


真夏であり、陪審員室にはエアコンがなく、壁の上に扇風機が付いているが、スイッチを入れても回らなかった。議論が沸騰し、有罪6人・無罪6人となり、先行きが見えなくなりそうになったとき、窓外に雷鳴が響き、大雨が降ってくる。暗くなった室内に電気を点けると、回らなかった扇風機も回るようになる。


涼を呼ぶ大雨、室内の点灯、動き出した扇風機の風、これらの心憎い演出により、事態は結末に向かって動き出すことを暗示する。


ルメット作品は社会派映画が多いというが、さらに言うなら、「正義」をテーマとしているとも言えよう。本作品では、合理的疑い(reasonble doubt)が一片でもあれば、容疑者を有罪とできない、という「正義」であり、『評決』であれば、一つの紛れもない真実が「正義」であった。


観終わってすがすがしい気分になる映画である。

12人が裁判所の外の階段を下りるときには、土砂降りの雨も、すでに上がっているのである。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。