監督:ジョン・カーペンター、脚本:ビル・ランカスター、原作:ジョン・W・キャンベル Jr.『影が行く』(Who Goes There ?)、撮影:ディーン・カンディ、編集:トッド・ラムジー、音楽:エンニオ・モリコーネ、メイクアップ:ロブ・ボッティン、追加モンスター(ドッグモンスター)製作:スタン・ウィンストン、主演:カート・ラッセル、1982年、109分、原題:The Thing、ユニヴァーサル映画。
1982年、南極大陸のアメリカ観測隊基地が舞台。
大雪原を、一匹のシベリアン・ハスキーがノルウェーの隊員のヘリコプターから逃げてくる。ヘリからはその犬を狙って狂ったように銃が発射されるが、なかなか当たらない。
犬は米基地の敷地内に入り込み、ノルウェー隊はヘリを降りてなお、犬を追うが、米基地の隊長・ギャリー(ドナルド・モファット)に射殺される。
状況を確かめるため、隊員のマクレディ(カート・ラッセル)らは、ノルウェー基地に向かう。そこには、自ら喉をカミソリで切り裂いた隊員の死体や、何かを取り出したと思われるバスタブに似た形の氷の塊、何かを探索した記録フィルムがあったほか、外には、二人の人間がくっついたまま溶けて焼かれたような「死骸」があった。・・・・・・
いわゆるSFホラーにジャンル分けされるホラー映画であるが、そのおぞましい<物体(The Thing)>の造形、一貫したシリアスな疑心暗鬼のドラマ性、救いどころのない結末など個性的な映画で、『ハロウィン』(1978年)と並び、ジョン・カーペンターの名を不動のものとした作品だ。
音楽は、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(1984年)、『アンタッチャブル』(1987年)、『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988年)で知られる映画音楽の大御所エンニオ・モリコーネによる。
本作品のクリーチャーや特殊メイクは、ロブ・ボッティンが担当したが、時間の関係で、シベリアン・ハスキーの変形シークエンスは、後に『ターミネーター』(1984年)などで知られるスタン・ウィンストンが行った。
<物体>は、狙った生物に接触すると、その生物に同化し、自らがその生物に成り変わることができ、以後これを繰り返して増殖する。成り変わってしまうと、犬でも人間でも、外見からは、それが本来の犬や人間なのか、<物体>が擬態した姿なのかの区別がつかない。
隊員のひとりが擬態となり火炎放射器で焼かれたあとは、隊員同士が互いに疑心暗鬼に陥る。
そんななかでも、マクレディは、隊員たちの血液を使って実験をし、本物と偽物の区別をつけようとする。
本作品の見ものは、やはり、薄気味悪いクリーチャーで、何度か突然現れる。ロブ・ボッティンはこれらを、一年半かけて作ったと言われる。ボッティン自身、子供の頃いじめを受けたことがあり、連中に仕返しをするには、力ではなく、気味悪がらせる、ということを思いついたという。
人間が共通して気味悪く感じるものは、彼によれば、両生類や甲殻類であり、ギトギト・ねばねばしたものであり、ネチャネチャという音であり、左右のバランスを失った形状だという。そこに、歯や腸などを加えて、気味悪い色をつけ、モンスターが出来上がった。
CGなどない時代に、図画工作のような気の遠くなるような作業と機械仕掛けだけで、これだけのモンスターを作り出した。しかも編集されれば登場は一瞬で、しかも隊員らにすぐに焼かれてしまう。
最初の変形は、シベリアン・ハスキーである。ここはスタン・ウィンストンの手による。シベリアン・ハスキーは人間になじみやすく社会性もあるという。変形するまでは、この犬一匹が主人公の役割をもっており、訓練されたその<演技>はみごとだ。カットによっては、フェイクの犬も使われている。
このみごとな演技を披露してきた賢い犬が、唸り声を上げて突然変形していくシーンは、前半のハイライトシーンであり、この映画の代名詞ともなっている。
ホラー映画として、ムダもなく、その後のホラーにあるようなお笑いやばかげた台詞などもなく、初めから終わりまで、徹底的にシリアスである。クリーチャーの登場も、間をおいて数回出てくる程度なので、かえって登場自体が効果的だ。
火だるまになるスタントマン、一瞬映る両手首のない一般人、ラストでの生き残った二人の会話など、シリアスであるからこそ見逃せないシーンも多い。
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