監督:マーク・ロブソン、製作:ヴァル・リュートン、脚本:ジョセフ・ミッシェル、アーデル・レイ、撮影:ジャック・マッケンジー、音楽:リー・ハーライン、主演:ボリス・カーロフ、エレン・ドリュー、1945年、アメリカ映画、72分、モノクロ、原題:Isle of the Dead(死の島)
吸血鬼は出てこない。お馴染み、日本の配給会社の受け狙いである。
ボボラカはキリシア神話にあるという悪霊で、人の心に棲みついて、その人を殺してしまうと言われる。
見るきっかけは、監督のマーク・ロブソンであった。
パニック映画として絶賛された『大地震』(1974年)の監督として覚えていた。まさか同一人物と思わなかった。監督デビューして二年後、32歳のときのサスペンスだ。ちなみに『大地震』は、CGのない時代でもあり、地震発生時の撮影は、すべて実物のコンクリなどの落下と大型模型で作成されている。
ボリス・カーロフは、フランケンシュタイン俳優として有名だ。あの顔はフランケンシュタインとして一世を風靡した。本作品では軍人役であるが、終盤にいくにしたがって怪優ぶりが発揮されている。
どこかで見たと思ったら、『第三の男』でクルツ男爵を演じたエルンスト・ドイッチュが出ている。古い映画を観ると、こうした発見もあってうれしい。
バルカン戦争の最中、ギリシャ軍のフリーディス将軍(ボリス・カーロフ)は、アメリカ人の新聞記者と共に妻の墓参りに行く。
墓はボートで渡る孤島にある。墓地を訪れると、遺体がなかった。すると、どこからか女の美しい歌声が聞こえてくる。そこを訪ねると、一軒の屋敷に行き着いた。
そこには考古学者が住んでおり、政治家などが客として招かれ、晩餐の最中であった。
やがてその家で、致死率100%と言われる伝染病が発生する。フリーディスは自らの権限で、そこにいる人々に、島から出ることを禁ずる。
どうやら敗血症だろうということであったが、治療に来た医師(エルンスト・ドイッチュ)も死んでしまう。次から次へと毎晩のように客が死んでいくなか、客人のひとりである尼僧は、ここにいるうちの誰かがボボラカにとり憑かれているせいだと言う。・・・・・・
そう、別にどうということはない映画なのだ。72分の短い舞台劇のようでもある。
今と違い、セット撮影よりロケのほうが高くつく時代だ。ほとんどセットというのは見ていて誰もがわかってしまうが、この時代にしては、きめ細かい調度品や豪華な品々が並んでおり、この住居もへやが多く、また、階段の上り下りは、室内ものでは常にアクセントの役割を負う。
ボボラカにとりつかれて死んだとされる女性は、ある晩、棺から起き上がり、あたりをさまよい、邸宅にも侵入する。女性は生前と全く同じ服装で歩き回る。
結果的に、数人だけが生き残り、ボートで島から離れることになる。
ここはまさに、死のさまよう孤島であった、というわけだ。
サスペンスの常道をいく作品で、得体の知れない思い込みにより人々が混乱するようすや、風の向きが変わることで災厄が遠ざけられるはずだ、とするとまどいなど、人々が真剣になればあるほど、どこか滑稽ささえ感じてしまう。
ボリス・カーロフやエルンスト・ドイッチュの灰汁の強い容姿もまた、この映画の内容を盛り上げるのにひと役買っている。
灰汁の強い顔や若くはきはきした男、年配の女優や迷信めいたことを言う女性、・・・彼らを配して出来上がったこのサスペンスには、血が流れるシーンもなく、醜い死体が転がっているシーンもなく、一定の品性に包まれている。
冒頭は、ボリス・カーロフが洗面器で手を洗うシーンのアップから始まる。
カメラのパン・横への動き、シーンごとの俳優の立ち位置、白黒ならではの光の使い方など、丁寧な仕事ぶりも注目されていいだろう。
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