映画 『紳士は金髪がお好き』

監督:ハワード・ホークス、原作:ジョセフ・フィールズ、アニタ・ルース、脚本:チャールズ・レデラー、 撮影:ハリー・J・ワイルド、音楽:ライオネル・ニューマン、主演:マリリン・モンロー、ジェーン・ラッセル、1953年7月、91分、カラー、原題:Gentlemen Prefer Blondes


髪がブルーネットのドロシー( ジェーン・ラッセル)と、親友のブロンドの ローレライ(マリリン・モンロー)という、二人のダンサー主演のミュージカル映画。

ストーリー仕立ては実にシンプルであり、歌あり・恋あり・笑いありの見て鮮やか・聞いて楽しいエンターテイメントになっている。

終わってみると91分とは思えないが、さすがにハワード・ヒューズの狙いは的を射ている。


音楽のライオネル・ニューマンは、アルフレッド・ニューマンの弟であり、アルフレッドほど作品数は多くないが、モンローの翌年(1954年)の作品『帰らざる河』でも、いいメロディーを付けている。


モンローは1953年に三本の映画に主演している。前作『ナイアガラ』で、一躍有名になったモンローにとって、二作目は大物女優ジェーン・ラッセルとの共演であった。

それも、違う役柄で別々に登場する共演ではなく、ほとんど常に並んでの共演である。

ミュージカルのところは、それぞれ一人のところもあるが、二人での共演シーンも多い。


ラッセルは、『ならず者』(1943年)『腰抜け二挺拳銃』(1948年)などに続いて出演四作目であった。デビュー作『ならず者』でその監督ハワード・ヒューズに見出され、モンローより大柄でグラマーであり野性的であるため、モンローとは対照的である。

当時、ラッセルの映画やそのチラシは検閲に引っかかったが、ラッセルは「肉体は隠すから汚くなるもので、太陽の下ではさらせばさらすほどきれいになるものよ。」と明言を残し、当局を相手にしなかったという。


監督の鬼才ハワード・ホークスがモンローを撮るのは、『モンキー・ビジネス』(1952年)『人生模様』(1952年)に次いで、三作目である。

モンローは、この役をもらってから、ブロードウェイで上映されていた同名の舞台に、ひと月間毎晩通い、主演のキャロル・チャニングの演技を勉強したという。


当初、20世紀フォックスは、同年11月封切の『百万長者と結婚する方法』でモンローと共演することになるベティ・グレイブルを使うつもりであったが、同年1月封切の『ナイアガラ』でモンローが思わぬ人気を博したことと、当時モンローの出演料が18000ドル(当時の換算で648万円)だったのに対し、グレイブルは15万ドル(5400万円)であったため、出費を抑えてもうけを大きくしようと、モンローを起用した。

共演のジェーン・ラッセルについても、モンローは、「私が毎週500ドルしか稼げなかった計算だけど、ラッセルは20万ドル(7200万円)を手にした」と回顧している。

しかし二人の仲はよかったようだ。


当時、ミュージカル映画で女優の歌を吹き替えていたマーニ・ニクソンによれば、当初、モンローの歌うところもすべて、ニクソンが吹き替える予定であった。これは、モンローがまだ歌が下手であったからだという。

ニクソンが一曲丸ごと吹き替えた歌だけでも、『王様と私』(1956年)のデボラ・カー、『ウエスト・サイド物語』(1961年)のナタリー・ウッド、『マイ・フェア・レディ』(1964年)のオードリー・ヘプバーン、などがある。

人間の声は、歌うと違ってくる。カラオケで歌う友人の声は、常日頃の声をは違うだろう。だから、女優の代わりに別人が歌っても違和感がないのである。

それでも、さすがに、『マイ・フェア・レディ』の「踊り明かして(I Could Have Danced All Night)」などは、ヘプバーンの声ではないと気付く人も多いだろう。


この映画でモンローがひとりで歌う「ダイヤは女の最良の友(Diamonds Are a Girl's Best Friend)」は、モンローの数々の歌の中でも有名である。

これは、金持ちの男としか結婚しないという信念をもったローレライを、象徴する歌詞になっている。

ニクソンは、独特の声であるモンローの吹き替えは畏れ多いということで固辞したため、「ダイヤは女の最良の友」の歌い始めの「No!、No!・・・」の部分と、後半の高音域の一節のみを吹き替えるだけになったという。

この歌のシーンでは、無名時代のジョージ・チャキリスがいるのがわかる。『ウエスト・サイド物語』は、この8年後(1961年)の作品である。


映画というのも、時間が経つといろいろなエピソードが出てくる。

ミュージカルはあまり好きではないが、エンタメ性を徹底的に盛り込んだこういった作品であれば、モンロー主演ということもあるが、たまに観てみたくなるものだ。



日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。