映画 『レイクビュー・テラス 危険な隣人 』

監督:ニール・ラビュート、脚本:デヴィッド・ローヘリー、ハワード・コーダー、撮影:ロジェ・ストファーズ、編集:ジョエル・プロッチ、音楽:ジェフ・ダナ、マイケル・ダナ、主演:サミュエル・L・ジャクソン、パトリック・ウィルソン、ケリー・ワシントン、2008年、110分、原題: Lakeview Terrace


ウィル・スミス製作の映画で、日本では劇場公開ず、ビデオスルーとなった。

邦題のサブタイトルに「危険な隣人」とあるが、これはなくてもいいと思う。


ロサンゼルス郊外のレイクビューテラスという住宅地に、白人のクリス(パトリック・ウィルソン)・黒人のリサ(ケリー・ワシントン)夫婦が越してくる。

隣には、ロス市警に勤める黒人エイベル(サミュエル・L・ジャクソン)が、子供二人と住んでいた。

夜、明るい光でクリスとリサは目覚めてしまうが、それはエイベルの家の二階に付けられた防犯灯の光であった。

翌朝、クリスがエイベルに挨拶に行くと、白人と黒人の夫婦であることを遠まわしに揶揄され、その後も、一見フランクな会話を交わしながら、エイベルの言葉には棘があった。・・・・・・


隣人とのトラブルを扱った作品は多い。引っ越してきたほうが異様な人間か、引っ越してきた先の隣が異様な人種であるか、どちらかだ。多くの場合、サスペンスタッチのアクションものになる。

この映画も、ラストは撃ち合いシーンになるが、それまでは、努めて冷静な展開をしていく。


エイベルは、本来、白人をよく思っていないことがわかってくるが、警察官として、また、二人のこどもの父親として、亡くなった母親の分まで、厳格であり法規を遵守する人物である。

さりげない内容展開であり、興行収入が見込まれないとして、日本では劇場未公開となったが、気負って妙に背伸びをしておらず、誠実なつくりの作品であり、好感をもてる。


隣家といっても、エイベルの家も若いクリス夫妻の家も、邸宅と呼ぶにふさわしいくらいの立派な家で、クリス夫婦の家には、小さいながらプールも付いている。

エイベルの仕事中のシーンは何ヵ所か入るがクリスの仕事のシーンは登場しない。話の軸はエイベルにあり、クリス夫婦との関係に力点を置きたかったのだろう。製作が黒人のウィル・スミスということだからだろう。


大きな事件が起きるわけではないが、一定のトーンと一定のテンポが保たれており、単純に、騒音やいやがらせという隣人問題に終わらせず、今でさえ存在する人種への逆差別を絡ませ、それを日常会話のやりとりに徹底させたことで、リアリティをもつ作品となった。


冒頭タイトルバックに、声だけが入る。それは、遠くで山火事が延焼しつづけており、消防隊が苦心惨憺たる思いで消火活動に当たっているというものだ。

一見、ドラマに関係していないのだが、映画の後半になり、遠くに山火事の煙が上がり、クリスらの住宅街にも、火の手が迫ってくる。そこは火に包まれないものの、煙が流れ消防車が集結してくる。

そのラストで、エイベルとクリス夫妻に、ある決着がつく。

この山火事の話は、ストーリーの全体を覆う背景効果となっている。わかりやすい演出だ。


悪役やアクションのイメージが定着している、大柄で強面のサミュエル・L・ジャクソンを、住宅街に住むどこにでもいる父親として登場させたのはおもしろい。

後半は、いかにも彼の持ち味が発揮されるが、全体に、日常のひとりの男として出ており、キャスティングの妙というべきだろう。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。