監督・原作:大友克洋『AKIRA』、脚本:大友克洋、橋本以蔵、作画監督:なかむらたかし、撮影:三澤勝治、編集:瀬山武司、音楽:山城祥二、演奏:芸能山城組、1988年(昭和63年)、124分、アニメーション制作:東京ムービー新社、配給:東宝。
日本中で、そして世界中で、人口に膾炙した漫画のアニメ化作品だ。漫画もアニメも、その後の漫画やアニメ製作に与えた影響は計り知れない。
金田と鉄雄という二少年の物語を軸に、近未来を描写している。
当時、単行本の第一巻だけ読み始めたとき違和感をもったのは、この男の子がしわくちゃだったということだ。この劇画でも同じだ。彼らは、年寄りの顔をした子供なのである。
彼らは、ナンバリングされ、ナンバーズと呼ばれており、念動力という超能力をもっていた。彼らの存在は、軍のトップシークレットであり、軍によりその超能力が研究されていた。それは、念力によって、ものを破壊し、また誕生させる能力である。
彼らのなかで、最も高い能力をもつ者がアキラであった。・・・・・・
膨大な原作を読んでいる読者からすれば、それを2時間にまとめた劇場アニメでは物足りないようだ。
主役級でない周辺の人物も、長いストーリーのなかでは、あとになって一定の役割をもって登場したりするが、2時間枠ではそれができない。いろいろカットしてあるところも多いようだ。
ただ、それでも、それはそれとして、アニメとしては充分楽しめる。原作の大友自身が、他人にまかせず、自らメガホンをとったからだろう。
原作を知らずに観た人も、映画館でこれだけのアニメを見せられたら、それはそれで感動するのではないだろうか。
背景の絵がすばらしい。ネオ東京のようす、そこが荒廃しているようすがいい。
セル画での表現もまた、すばらしい。特に、バイクの走るシーンは、バイクそのものはもちろん、ライトの描き方、スピード感などプロの腕だろう。
その他細部を見ていると、これでもかというほど数えきれない腕前を知ることができる。
登場人物の顔がみな似たり寄ったりという批判もある。たしかに…しかしそこは、ちょっとした表情などのヴァリエーションでクリアしているとも言える。
これらの表現力は、漫画家を志す者の目には、憧れの的になったに違いない。
この映画への批判は、ほとんどがそのストーリーに対してである。細かなセリフは違っても、原作とほぼ同じ展開と結末なので、この批判は原作に対してなされたものとも言える。その原作をさらに短縮したわけだから、たしかに飛躍したようなところもあり、強引とみえるところもある。
ケイとキヨコ(ナンバーズのひとり)との以心伝心、鉄雄とアキラの心の重なりなど、無理もあるなあと思いつつ、何でもかんでも理詰めにしなかったそのなりゆきが、またいいのかも知れない。
終盤手前までは、ストーリーを追いやすいが、鉄雄が肉の塊のように巨大に膨張するあたりから、絵としては相変わらずすばらしいが、ちょっと理解しにくくなっていく。
キューブリックの『2001年宇宙の旅』を参考にしたとも言われているが、あの「ムーンチャイルド」の発想はたしかに念頭にあっただろう。それだけではなく、ラストシーンの描写は、『2001年…』の光の洪水を彷彿とさせる。
しかしいずれにしても、人間だか何かわからないすべての動物あるいはそのもっと以前の物体にも、それぞれが底知れぬエネルギーを宿していて、その最たるものが今現在は「アキラ」という地下に閉じ込められている存在なのである。
「アキラ」は、鉄雄の「心」と共鳴することによって、新たな世界を産み出すわけだ。ナンバーズも技術者も設備もすべて消え去ったが、金田とケイ、カイ(金田と暴走仲間)は生き残る。
そして、ラストシーン…鉄雄の眼球が大写しにされる。この世界を凝視しているという構図だ。
主役は金田と鉄雄と言っていい。二人は幼馴染みである。鉄雄は常にひ弱で、金田はそんな鉄雄を守ってきたが、鉄雄はいつか金田と対等になろうとしていた。
そういう心理過程があった上で、あるとき鉄雄が超能力をもってしまうことで、金田に対する優越感も味わうことになる。このへんがストーリー上の伏線となっている。
ケイは反政府ゲリラの一員であったが、冒頭から二度ほど金田に助けられ、金田はケイに淡い恋心をもっている。
原作は、若い男性向け雑誌『週刊ヤングマガジン』への連載であり、内容も不良少年が中心となっており、流血シーンも多い。ナンバーズの子供たちはみな、しわくちゃの爺さんや婆さんの顔であり、3人のうちのひとりはイスの座ったままで重役風の子供である。初めて見ると、ちょっと気色悪いものがあり、へたをすると差別だなどと騒ぐ連中も出てきそうだ。
しかし、スタジオジブリ系のニュアンスは全くなく、同じ空想や夢を描くにしても、パワフルであり、不良系にもスポ根ものにもとれる。
その後の大友の活躍はどうかという前に、今から30年前の1988年に、こうしたアニメが日本に誕生していること自体、漫画の技術やテーマからしても、驚嘆に値するし誇りにしていいと思う。
ぜひご覧いただきたい。
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