映画 『ロミオとジュリエット』

監督:フランコ・ゼフィレッリ、原作:ウィリアム・シェイクスピア、脚本:フランコ・ゼフィレッリ、フランコ・ブルサーティ、マソリーノ・ダミコ、撮影:パスクァリーノ・デ・サンティス、編集:レジナルド・ミルズ、音楽:ニーノ・ロータ、主演:レナード・ホワイティング、オリヴィア・ハッセー、1968年、138分、英伊合作、英語、原題:Romeo and Juliet


7回の映画化のうち、最も有名な作品となっている。

ジュリエット役オリヴィア・ハッセー、ロミオ役レナード・ホワイティングは、撮影当時それぞれ、16歳と17歳であった。より原作に近い年齢という。レナード・ホワイティングはロンドン出身、オリヴィア・ハッセーはブエノスアイレス出身。


監督のゼフィレッリはフィレンツェ生まれ。師事したルキノ・ヴィスコンティ同様同性愛者であり、制作のため、素人の美少年を数か月探し求めたという点で、『ベニスに死す』(1971年)と共通している。

結果として、目元の麗しいレナード・ホワイティングが選ばれたが、アルゼンチン生まれのオリヴィア・ハッセーの容姿が内容に合うかどうか疑問だ。確かに、かわいくて目も大きく柔らかい印象なのだが、西欧圏の顔でないのは確かだ。


ニーノ・ロータはフェリーニ映画の音楽で有名だが、本作以外に『戦争と平和』『太陽がいっぱい』『ゴッドファーザー』でも知られる。

出番は少ないが、ロミオの従える少年バルタザールは、どこかで見たと思ったら、『マドモアゼル』の準主役で、ジャンヌ・モローに盾突くブルーノ少年(キース・スキナー)であった。

『評決』(1982年)で判事を演じたミロ・オーシャが、二人の仲をとりもつ神父役で出ている。


中世のイタリア・ベロナは、強大な権力のもつ領主の下に、キャプレット家とモンタギュー家の対立が続いていた。

モンタギュー家に属するロミオは、キャプレット家主催のパーティで、ジュリエットと会い、一目惚れする。それはジュリエットも同じであり、翌日、神父の下で、結婚の儀式を終える。神父は、二人の気持ちを尊重すると同時に、二人の婚姻によって、両家の争いに終止符が打たれることを期待したのだった。

翌日、広場で、両家の若い家来たちが喧嘩沙汰を起こし、ロミオの親友マキューシオが、ジュリエットの従兄ティボルトに、殺されてしまう。そこに居合わせたロミオは興奮し、ティボルトを追いかけていき、殺す。

領主は、両家の面々と民衆の前で、ロミオをこの町から追放すると宣告する。・・・・・・


ストーリーとしてはこのとおりだが、今観ると、懐かしいと同時に、申し訳ないが、カネはかかっているものの映画としてそれほどのものかと思ってしまう。日本ではキネマ旬報洋画第2位であった。


若く美しい男女が主役の恋愛悲劇であり、アメリカだけで日本円にして144億円の興業収入を上げている。主役も監督も、この一作品だけで一生が送れる収入を得た。


四大悲劇を書いたシェイクスピアにしては、テーマとして深淵な内容ではないが、二人のキャラクターより、出会いを含め、小さな運命のいたずらが、悲劇を招いていくようすを創作している。

英語を聞いていてわかるが、多少中世らしい表現を使っているので、日本でいえば時代劇のようなものだろう。

動かないで、を、D'ont move ! でなく、Move not ! などと言っているが、これはこれで、どこか品を感じる。


もともと戯曲なので、いかにもシャイクスピアらしい長いセリフが多い。比喩や言葉遣いも、悪くいえば、鼻をつくような形容やセリフも長いのには多少辟易する。

しかし、中世らしい衣装、建物内部、装飾品などのほか、瓶や剣にいたるまで、目を楽しませてくれる。埃っぽい屋外のシーンも多く、中世イタリアの雰囲気は充分に味わえる。


若い二人の俳優は、とてもきれいに撮られており、出会ったばかりの日の夜の有名なバルコニー(正確には、建物の外廊下)のシーン、初めて床を共にした翌朝のシーン、ジュリエットが自害してロミオの胸に顔を横たえるシーン、など、穢れを知らない10代の純潔な心を、そのまま映像に落とし込むことに成功していると言えるだろう。

特に、バルコニーのシーンは、意外に長い。ときめく二人の気持ちを表さんがために、ここにも、これでもかという文語表現・比喩表現が、二人のやりとりに盛り込まれている。

中には、今日の出会いはまだ蕾だ、次に会うときには花になるだろう、と思わせぶりなセリフもある。


やや長めの作品でもあり、長く演劇的なセリフに付き合わされるが、歴史に残る作品として、観ておく価値はあるだろう。

ちなみに、私は、恋愛ものは悲劇であっても、あまり好きではないのだ。

なぜかって? スクリーンのなかであっても、他人の恋愛模様など、退屈至極なのだ。



日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。