映画 『ワン、ツー、スリー/ラブハント作戦』

監督・製作:ビリー・ワイルダー、脚本:ビリー・ワイルダー 、I・A・L・ダイアモンド、撮影:ダニエル・L・ファップ、美術:アレクサンドル・トローネル、音楽:アンドレ・プレヴィン、主演:ジェームズ・キャグニー、1961年、109分、モノクロ、アメリカ映画、原題:ONE,TWO,THREE



コメディ映画である。ドイツ語も出てくるが、MGM映画である。

よくできた、いわゆるスラップスティック・コメディで、アドリブによるドタバタ喜劇ではない。

タイトルは内容を暗示しているが、セリフにも出てくる。


名監督ビリー・ワイルダーには、これより後に作られる、マリリン・モンロー主演の『お熱いのがお好き』など、コメディも多い。

悪女をテーマとしたシリアスな作品『深夜の告白』や『情婦』を作った同じ監督とも思えない。彼の映画人としての真髄は、映画は芸術というより娯楽である、というものであった。


元々脚本家としてデビューしているので、ストーリー展開は職人肌で、どの作品もまことにみごとだ。ただ、それゆえ、脚本に力がありすぎて、勢い、セリフが多くなるのは、コメディでもシリアスでも同じである。字幕スーパーを見るのに忙しくなるときがある。本来は字幕なしで観られたらよい。


この作品は、小さい頃、テレビで観たことがある。一回しか観ていないはずだが、その後、映画にのめり込んでいくに従い、主演のジェームズ・ギャグニーを知り、ワイルダーも知り、いつかもう一度観たいと思っていたところ、ようやく、20世紀フォックス・ホームエンターテイメント・ジャパンから STUDIO CLASSICS として出された。


東西冷戦下の西ベルリンにある、コカコーラの西ベルリン支社長マクナマラ(ジェームズ・ギャグニー)が主役だ。

アメリカにある本社社長から、その令嬢がヨーロッパ旅行に出かけたついでに、西ベルリンにも行くので、その面倒をみると同時に、危険なところに出かけないように監督してほしいと頼まれる。

これをうまくやれば、晴れて、ロンドン支社長へと栄転することになっている。


ところが、令嬢スカーレットはおてんば娘であり、東ベルリンに入り、共産主義者の青年と出会い、結婚まで済ませてきたという。これがそのまま社長に知られては、自分の監督不行き届きとなり、それどころか出世の道も閉ざされてしまう。

しかも、社長夫妻は、近々西ベルリンにやってくることになった。・・・・・・


セリフには、実際の固有名詞が多く使われている。それ以上に、ソ連側への皮肉や社会風刺も効いており、心理劇的コメディではなく、東西冷戦が皮肉られたり滑稽に扱われたりと、政治風刺映画のようでもある。

会話が多く、まさに、ワン・ツー・スリーといったスピード感をもった展開で、一気に突き進んでいく。

タイトルバックや途中に、ハチャトゥリアンの『剣の舞』が使われていることからも、その忙しい展開が予想できるだろう。


ジェームズ・ギャグニーは、もともとギャングなどの悪役が多かった。ここでは、社長令嬢に振り回される滑稽な人物を演じている。

彼の出演作品では、『汚れた顔の天使』(1938年)のワンシーンが思い出深い。ドリス・デイと共演した『情欲の悪魔』(1955年)もまた観たいが、なかなかDVD化は難しいかもしれない。ドリス・デイの『Love me or Leave me』が主題歌となった映画だ。



日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。