映画 『ミザリー』

監督:ロブ・ライナー、原作:スティーヴン・キング、脚本:ウィリアム・ゴールドマン、撮影:バリー・ソネンフェルド、編集:ロバート・レイトン、音楽:マーク・シェイマン、主演:キャシー・ベイツ、ジェームズ・カーン、1990年、108分、原題:MISERY


キャシー・ベイツはこの映画で、アカデミー主演女優賞を獲得いている。当時42歳。ジェームズ・カーンは『ゴッドファーザー』(1972年)などで有名。ロブ・ライナーは、『スタンド・バイ・ミー』(1986年)の監督として知られる。


ポール・シェルダン(ジェームズ・カーン)は、山のホテルで小説「ミザリー・シリーズ」の最終章を書き上げ、車で街に下りようとしたが、途中、猛吹雪に遭い、車ごと崖から転落してしまう。

気が付くと、ある家の一室に寝かされていた。そこは、元看護婦であるアニー・ウィルクス(キャシー・ベイツ)の家であった。彼女は、両脚を複雑骨折し、右腕も動かせないポールを、熱心に看病する。というのも、アニーは小説『ミザリー』の熱狂的なファンであったからだ。


ひとり暮らしのアニーは、寝たきりの状態になったポールに、食事を運び、薬も与えた。

そのうち、アニーがねだるので、ポールは感謝の気持ちもあり、まだ未発表の最終章を、アニーが読むのを許してしまう。

途中までは喜んでいたアニーだったが、最後にミザリーが死ぬという結末に異常な興奮を示して反対し、今ある原稿を焼け、と命じる。


これを機に、アニーの裏表ある異様な人格があからさまになり、次第に粗暴になり、身動きできないポールは、何とかアニーの元から脱出しようと試みるが、結局、脱出はままならず、アニーの言われるままに、新たな小説を書くことになる。

やがてアニーには、犯罪の過去があることがわかる。・・・・・・


こうしたサスペンス調の作品で、俳優がアカデミー賞を取るのは珍しい。それほどまでに、アニーを演じたキャシー・ベイツの演技が鬼気迫るものだったと言える。

内容柄、舞台は、ほとんどこのアニーの部屋で、後半に入り、アニーがポールに車いすを与えてから、アニーの外出中に、やっとポールが部屋を出て、他の部屋のようすを見るようになる。


他には、ポールの作品の編集長(ローレン・バコール)がいる出版社や、彼女の意向を受けて捜索を開始する保安官夫婦のシーンくらいしか映らない。

それだけに、いきおい、主役二人の演技合戦となり、顔の表情のアップも多く、ベテランでなければなしえない映画となる。


ジェームズ・カーンは『ゴッドファーザー 』では、長男のソニー・コルレオーネ役を演じている。その凄みある役柄とは打って変わって、こちらでは悲劇に見舞われる小説家の役をみごとに演じている。

ほとんどが、寝たきりか車いすでの演技となっている。


キャシー・ベイツはこのあと、『黙秘』(1995年)、『悪魔のような女』(1996年)などに出演し、個性的で異様な女性を演じ切っている。

見たとおり小太りのおばさん俳優なのだが、舞台出身の俳優らしく演技がしっかりしており、全身や顔つき・目つきなどの演技がすばらしい。

おそらく、演じていて、本人も楽しかったのではないだろうか。


ふつうに笑顔で話していたかと思うと、徐々に狂気の表情になり甲高い声でまくしたてたり、異常に細かいところまでチェックしていてポールに隙を与えなかったりと、その異様な性格をうまくつかんで演じている。

アニーが犯人らしいと気が付いた保安官がアニー宅を訪れた際、一度目はふつうに対応して帰すが、すぐまた訪れた際、ポールをかくまっているのがバレることを恐れ、無言のまま背中からライフルをぶっ放す。

アニーが、いつ突然豹変し、どんな行動をとるか、ポールにも観客にもわからず、ストーリー展開のうまさがある。


こういう性格のアニーだが、最後ポールと格闘し殺されるところも、それまでに観てきたアニーに、いかにもふさわしい殺され方であり、観客を納得させるのである。

車いすのポールにとっても、手の届く範囲・動ける範囲には限られた物しかなく、ああした報復しかありえなかった。


悪が殺されるときは、その悪の大きさや質に応じた殺され方が用意されていないと、観客は消化不良になるのだ。

映画とはそういうものだ。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。