監督:蜷川幸雄、原作:貴志祐介、脚本:蜷川幸雄、宮脇卓也、撮影:藤石修、編集:川島章正、音楽:東儀秀樹、主演:二宮和也、松浦亜弥、2003年、116分。
高校生・櫛森(くしもり)秀一(二宮和也)は櫛森家の長男で、妹・遥香(鈴木杏)と母(秋吉久美子)、それに、母の連れ合いだが今は離婚している夫・曾根隆司(山本寛斎)と住んでいる。
曽根は働きもせず母にカネをせびり、酒を飲むだけであり、秀一はいつしか曽根を亡き者にしようと決心する。
秀一はついに曽根殺害を決意し、いろいろ準備を整えた末、学校の美術の授業時間に、校庭で絵を描くといい、急いで家に戻り、殺害を決行し、また授業に戻るが、クラスメイトの紀子(松浦亜弥)は、秀一のようすが変だと感じていた。・・・・・・
たまに観るのだが、なかなかいい映画だ。
舞台の演出家・蜷川の映画であり、多少、舞台じみたところもあり、くどい演出もあるのだが、抑えるところは抑え、メリハリが効いていてよい。
一家のあるところは、江ノ電や海岸線の道路から、由比ヶ浜や鎌倉に近い住宅街であることがわかる。海の脇の国道134号線もたびたび出てくる。
時期も夏場であり、海は眩しいくらいの光に覆われ、空も青い。
そんな外の光景と正反対なのが、秀一のへやだ。
自動車の車庫を作り変えたような部屋は、昼間でもほとんど蛍光灯だけで明るくなっている。そこに、いかにも高校生らしいマンガ本やカセットなどもあるが、ロードレーサー(ロードバイク)の部品や空っぽの大きな水槽なども並んでいる。秀一は(自転車でなく)ロードレーサーで通学しているのだ。
暗いへやであっても秀一自身は、屈託のないふつうの高校生であることは、クラスのようすからもわかる。が、内に秘めた決意、母と妹を守るために大胆な行動をとろうという決意は、外からはわからない。
タイトルにあるように、事件を起こすまでの画面には、秀一のへやのなかで、全体に青い光が多く使われる。その光は、秀一の心の象徴であろう。
曽根殺害の犯人が秀一であるらしいことは、遙香にも気づかれたが、へやに招いた紀子にも、それを告白する前に察せられてしまう。
学校に行っても白い目で見られ、しかたなく紀子と下校し、へやに着く。二人の話はぎくしゃくしてはずまない。淡い恋心も見られるが、映画はそちらに進まず、秀一の心の葛藤に踏みとどまる。
口喧嘩してシャッターの外に紀子のカバンを放り出して、帰れよ!という秀一だったが、水槽に指を這わせると、反対側で紀子も、それに重ねるように指を這わせる。ここはまさに映画らしいところで、舞台では不可能なシーンだ。そして、このストーリーの圧巻でもある。
このとき秀一は、微妙に涙ぐみ、紀子は少し微笑む。余計なセリフは一切排されたみごとなシーンだ。
時折、静かなピアノのテーマ曲が流れ、各シーンを効果を与えている。
水槽の中から秀一が起き上がるファーストシーンから始まり、カメラは、ハンディも使いながら、作品にふさわしい動きを見せている。
肝心なところではゆっくり動くのもよかった。
キャスティングもいい。出演者のほとんどが、笑顔の似合う明るいキャラクターで知られる俳優たちであり、それを、シリアスなドラマに起用したのが成功した。デザイナー山本寛斎も、出番は多くないが、だらしのない元継父の役を、堂々と演じている。
若い俳優に、滑舌のよくないところがある。
夏、青い海、青い空、水族館、……全体に青を基調とした映像に逆らうかのように、車庫を自室にするひとりの高校生が、継父殺しを図り、実行した。
その経緯を、秀一の姿と心のうちに迫りながら、淡々と描いた秀作だ。
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