監督:脚本:マルクス・シュラインツァー、撮影:ゲラルト・ケルクレッツ、音楽:クラウス・ケラーマン、主演:ミヒャエル・フイトダヴィド・ラウヘンベルガー、2011年、96分、オーストリア映画、ドイツ語、原題:Michael
監督は、ミヒャエル・ハネケ作品でキャスティングディレクターを務めたこともあるマルクス・シュラインツァー。
保険会社に勤めるミヒャエル(ミヒャエル・フイト)は独身であったが、地下室に10歳くらいの少年(ダヴィド・ラウヘンベルガー)を軟禁している。
このことを、周囲は誰も知らない。
車で帰宅すると、窓の自動シャッターを下ろす。鍵のかかった地下室から少年を呼ぶと、向かい合っていっしょに食事をする。
徐々に明らかになっていくのだが、軟禁といっても、少年の生活に必要なものは、寝具から便器、簡易なシンク、電気ポット、本、鉛筆など、ひととおり揃えられている。
少年を後部座席に乗せて、こっそりドライブに出ると、動物園や景色のいい見晴らし台に昇ったりもする。夕飯は作ってあげて、いっしょに食べるし、いっしょに遊ぶときもある、クリスマスには、小型のツリーを買ってきて、二人で飾り付けをおこなう。
冒頭の食事のシーンのあと、二人並んで皿を洗い、皿を拭く姿は、まるで親子のようだ。
ミヒャエルが、どうやってこの少年と知り合い、こういう状態になっているかは、語られない。
途中のテレビ番組で、子供の失踪を嘆く母親が映ると、彼はすぐその番組を消す。少年に二段ベッドを買い与え、友達を「連れて」くるからと、少年の集まるゴーカート会場に足を運び、年相応の少年を物色するが、その子は父親に呼ばれて、失敗に終わる。
こうした描写から、どちらにしても、誘拐・監禁であることはわかるが、むしろ、ミヒャエルと少年との、奇妙な関係やその日常を、淡々と描こうとした作品だ。
音楽はほとんど入らず、セリフも少ないため、観やすいといえば観やすい。カメラもあまり動くことなく、静かな描写が多く、それだけに不気味さを増してもいる。
ただ不気味なだけでなく、食後、ミヒャエルが少年のへやに入って扉を閉める、つづいて、ズボンを下ろしたミヒャエルが、ひとり洗面台で、下腹部を洗う様子が映される。その後も、これに似た描写があり、ミヒャエルはときどき、少年にフェラチオさせていることがわかる。即ち、児童性愛(ペドフィリア)である。
同僚とスキー場に行き、宿のバーでウエイトレスと、人のいなくなった店内で、服を着たまま彼女を犯そうとするが、なかなかうまく挿入できないといったエピソードもある。
電動歯ブラシで歯を磨き、タバコは外で吸い、何かと几帳面で、職場では何事もなく働き、いよいよ昇進した矢先に、悲劇が起きる。
昇進のパーティに出るため、この晩ミヒャエルは、毎晩定時に切る少年のへやの電源を落とさなかった。そのため、少年は電気ポットで湯を沸かし、帰宅してその部屋を覗いたミヒャエルに、熱湯を浴びせたのである。
取っ組み合いとなり、ようやく少年をへやに押し戻し施錠したミヒャエルは、半分目も見えないような状態で車を運転し病院に行こうとするが、事故を起こして、そのまま死んでしまう。
彼の葬儀が行われ、年老いた母親と、ミヒャエルの妹の夫が、ミヒャエルの家に来て、遺品を整理する。
母親は、地下に下りて、何度となく、少年のへやの前を通り過ぎるのだが、ようやくその扉を開けて、中を覗いた瞬間、映画は突然終わる。
少年がいたことに驚いたのか、日数も経っていて少年が死んでいたのか、わからない。食料はわりとあったので、少年は生きていたのだろう。
どちらにしても、老婆にとっては、腰を抜かすような光景であったはずだ。
かくして、96分という短めの映画が終わったあとも、いろいろな疑問や不快感を残す一本である。
設定が少女でなかった理由はわからない。それだと、映画としては、ありふれた脚本になるかと思ったのかもしれない。
暴力や暴言で監禁していたわけではなく、そのへやもきれいに整理され、いっしょに食事やゲーム、クリスマスを楽しんでいた。
しかし、少年は、やはり、外界に出たかったのである。
といって、少年が、来る日も来る日も、脱出を試みようとする状況が映されれば、それはそれでまた、陳腐な作品になったのだろう。
もっとも、頭の回る大人につかまってしまい、これまでに充分「慣らされた」とするなら、少年ももはや、諦めていたのかもしれない。
『コレクター』という古い映画がある、初めは蝶を収集していたのであるが、ある日、若い女性を捕えて、自宅の地下室に、監禁する話だ。この映画でも、男は、きちんと食事を与え、着るもののサイズまで聞いて、ドレスを買ってきていた。
この娘と結婚しようと思っていたからである。
ミヒャエルという、児童性愛者の少年軟禁物語ではあるが、暴力や脅迫だけで監禁しているのとは違うだけに、かえって不気味さ、不快感、矛盾といったものを、見せられどおしにされてしまう映画だ。
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