映画 『アリス・クリードの失踪』

監督・脚本:J・ブレイクソン、撮影:フィリップ・ブローバック、編集:マーク・エカーズリー、音楽:マーク・キャナム、出演:ジェマ・アータートン、マーティン・コムストン、エディ・マーサン、2009年、101分、イギリス映画、原題:The Disappearance of Alice Creed


単純におもしろい!

大したことないだろうと思って借りた1本だったが、予想外だった。久しぶりにおもしろい映画に出会った。

主演というより、上の3人しか登場しない。男二人がアリス・クリードという女を、身代金目当てに誘拐・監禁する。だたし、刑事もののように、犯人対刑事・家族の構図はストーリー上に全く現れず、もっぱらこの3人だけの世界に終始する。

この映画はさすがに、内容には触れないほうがいいだろう。一旦何か書きだすと、その理由にも触れざるをえず、一挙にすべてがネタバレになってしまうだろうから。


この3人だけのドラマだから、単線的な展開になるだけなら興ざめになったはずだ。そうならないのは、ストーリーとその展開がうまいからだろう。信用と裏切りを一本の糸のように、うまく撚(よ)り合わせたものだと思う。

そのシリアスでサスペンスな雰囲気を連続させ息をつかせないのは、やはり映像だろう。ほとんどが室内なのでカメラワークはむろん多様だが、編集の切れ味がよいし、場面転換が、音楽の意外な転調のように、なかなか新鮮でしかもキチッとフィットしていく。


冒頭からしばらくはほとんどセリフらしいセリフもなく、誘拐の準備を整える二人の男が映る。このテキパキしたやりとりで、一気に中に引きずり込まれる。女を奥のへやに監禁した一室が舞台の中心で、外部とのやりとりは映さない。その女の恐怖におびえる姿をビデオに撮り、それを親に送りつけるあたりまでは、他の似た映画よりは、細部にまで行き届いた誘拐事件の始まりだなあくらいの感想でった。


男二人のうちリーダー格の年上のほうが、いつも外部へと交渉に出かけ、気の弱そうな年下のほうはいつも留守番で、ベッドにくくりつけられた女の見張り役である。


結局、男二人は死ぬこととなり、女は生き残る。悪い者は死に、被害者は助かるという、西洋映画流の仁義にかなっているし、また世間の道理にもかなっている。その道理をはずさない限度ギリギリにまで、3人のドラマを展開させた脚本は、充分個性的だし注目されるのは無理もない。


別にちっとも高尚な内容ではなく、脚本頼みの映画に過ぎないが、低予算にしてエンタメ性はとても高く、観て損はしないと思う。ホラーを観ておもしろかった、というのに通じる。こういう映画に揚げ足取りしてもしかたないと思う。むしろ、何ヵ所か強引な演出が見られる。その部分だけは全体の流れのもつ波長と合ってない。


この気の弱そうな男のほうは、誘拐犯の印象とほど遠く、きれいな顔立ちをしている。観ているうちに、あれ~?…と思っていたら、やはりその辺から、この映画じたいの本題に入っていったなあ。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。