監督:深作欣二、脚本:笠原和夫、撮影:赤塚滋、編集:堀池幸三、照明:中山治雄、美術:井川徳道、音楽:津島利章、主演:菅原文太、松方弘樹、梅宮辰夫、1975年、100分、カラー、東映。
楽しい映画である! これが映画ってもんだろう!
東映の仁義なき戦いシリーズの延長線に出来た作品。
とにかく、テンポよく、ストーリー展開よく、セリフよく、演技よく、アクションよく、観始めてからラストまで、ぐいぐい引っ張られる。100分があっという間だ。
関西の某所にある倉島市という架空の街が舞台。モデルは倉敷市だろうか。県警のモデルは、広島県警である。
刑事と暴力団と市議会議員などが、みな持ちつ持たれつの関係にあるところへ、かつて仲間割れしたグループ同士の抗争が起きる、という話。
菅原文太が刑事、松方弘樹が組長、梅宮辰夫は後半からの登場だが、本部から来たエリート刑事と、キャスティングがすでに<ありえない>。
この<ありえない>キャスティングでありながら、映画として、ストーリーとして、エンタテイメントになってしまう。脚本がすばらしいためだ。
初め、いろいろ人物が登場するが、混乱はない。
カメラもよい。深作の円熟の境地とでもいうべきか。カット、切り返し、編集、シーンの転換など、そのときそのときのシチュエーションと画面やカメラの動きが、ピタッと一致している。
単に任侠ものではなく、この刑事と組長には、過去に、二人しか知らない秘密がある。この映画では、警察も暴力団みたいなもんだ。アクションがタイムリーに入るのだが、そのタイミングがまたいい。
この三人だけが目立つのではなく、刑事の仲間、組長の手下などに、よく知られる顔の俳優が配置され、それぞれが堂々たる演技を披露している。
金子信雄、山城新伍、成田三樹夫、佐野浅夫、汐路章、藤岡重慶、鈴木瑞穂、遠藤太津朗、室田日出男、成瀬正孝、田中邦衛、川谷拓三、野口貴史、小松方正、安部徹、女優では池玲子、弓恵子、中原早苗など、わかる人にはわかる懐かしい顔ぶれだ。
ほとんど主役など張ってないが、成田三樹夫、成瀬正孝、川谷拓三、室田日出男は、それぞれきちっとしたシーンが用意されていて、俳優冥利に尽きるだろうなと思う。田中邦衛はわずかな出演だが、気色悪いヤクザの役で、思わず笑ってしまう。
そう、いい映画というのは、シリアスなものでも任侠ものでも、どこかにクスッと笑ってしまうところがあるものだ。だから楽しい。
こういう映画はもうできないだろう。
こういう楽しい映画が、日本中を回って、スクリーンで見られていたというのは、すばらしい時代だ。
刑事の仲間に、いつも同じことを言う老刑事がいる。
「暴力団なんか、まだかわいいもんだ、アカをやっつけるほうが先だ」
こういうセリフが平然と入っている。
文太がエリートづらした梅宮に言うセリフもいい。戦後まもなく、ヤミの食い物をあんたも食っただろう、そのあんたがきれいごと言えるんか、といったセリフだ。
関西弁、しかも、巻き舌で吐き出されるセリフは、ドスが効いていてヤクザ映画にはぴったりだ。歌舞伎町を舞台とする映画などを観たことがあるが、セリフ回しやカットの切り返しなど、関西舞台の映画には遠く及ばない。
それにしても、役者の演技がなければ成功しないジャンルだ。映画の楽しさを自ずと知らせてくれる映画だ。楽しい映画というのは、常にフレームのなかが溢れんばかりに充実している。言葉のやりとりだけの映画は、もはや小説である。
ヤクザ映画というジャンルにあるのは確かだが、映画のエンタメ性、つまり、映画って楽しいな、と思わせる昭和の作品だ。
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