監督:小沼勝、脚本:長谷川弓子、安倍照男、村上修、撮影:鈴木耕一、編集:矢船陽介、照明:矢部一男、美術:山崎輝、音楽:西岡俊明、2002年、99分。
まだまだ自然の残る北海道鹿追町が舞台。製作には鹿追町が全面的に協力している。
若草色のコートを羽織った一人の女、瑞枝(みずえ、戸田菜穂)がバスを降りる。彼女は、交通事故で死んだ夫・匡(ただし)の兄・充(みつる、遠藤憲一)に会いに、東京から突然やってきたのだった。二人は東京で、サルサにコンテストに出て、賞までもらったことがあった。
充は東京での生活を捨て、蕎麦職人として人生を再スタートするべく、故郷の鹿追に戻ってきたところであった。・・・・・・
冒頭にセピアカラーで、馬の世話をする神田日勝の姿が描かれる。彼は実在した画家である。東京大空襲を受け、家族でこの地の逃れてきたのであった。兄に替わり、自分が親の跡をついで農業を受け継ぎ、同時に馬の絵を描き、いくつかの賞も受けたが早逝している。彼を記念する美術館も、何度か出てくる。
その息子たちが、充兄弟という設定だ。
充と瑞枝には、消しにくい過去があり、匡の事故死について、自責の念を忘れられずにいた。
この心理的モチーフを軸に、鹿追町のさまざまな人々、充の幼友達・岩淵(モロ師岡)、岩淵が40歳を過ぎて初めて結婚する話や、その結婚相手の床屋の婦人(片桐夕子)とその娘(中村麻美、なかむら・まみ)、その娘と仲良くなる乗馬場の研修生、充が師匠と仰ぐ農家の老人(北村和夫)とのエピソードを絡ませながら、ストーリーはゆっくり展開していく。
友人の結婚パーティで、充と瑞枝がサルサを踊るクライマックスに向けて、充と瑞枝の恋の駆け引きが、行きつ戻りつしながら進んでいく。
小沼勝(まさる)は日活ロマンポルノ出身の監督であり、今のところ、この作品が最新作である。片桐夕子はこのとき51歳であるが、元々日活ロマンポルノの女優である。
ポルノ出身の監督や女優は、演技がうまい。セリフ回しやきめ細やかな表情を必要とするシチュエーションやそういうキャラクターの役柄は難しいが、画面上の存在感は確かである。監督も濡れ場を撮る回数が多くなるせいか、カメラワークや演出は鍛えられている人が多い。
故若松孝二より、小沼のほうが絵が華やかであくどくない。
タイトルのようなシーンは映画にはないが、あたかもそうであるかのように、戸田菜穂は常に官能的に映され、監督の底力が発揮されている。
アパートのへや、そこは充のへやであったが、突然瑞枝が出てきたので、瑞枝をそこに数日住まわせるのだが、そのへやで、二人が向かい合ううち、充が瑞枝の乳房を、セーターの上から、その下から手を入れて揉む。エロティックなシーンはそこだけで、瑞枝が鹿追に来てから帰るまで、充と瑞枝は一度も閨房を共にしない。
友人は結婚し、床屋の娘は研修生と恋仲になる一方で、瑞枝は鹿追を後にする。最後に抱擁するのが、神田日勝記念美術館の彼の遺作の前であった。この、後ろ足を欠いた馬の絵も、二人の前途を表わすメタファーになっているようだ。
長さも99分と見やすく、小品ではあるが、大上段に振りかざさない節度がいい。
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