映画 『はさみ hasami』

監督:光石富士朗、脚本:光石富士朗、木田紀生、撮影:猪本雅三、編集:菊池純一、音楽:遠藤浩二、主演:池脇千鶴、徳永えり、竹下景子、窪田正孝、製作:2010年、公開:2012年、112分。


永井久沙江(ひさえ、池脇千鶴)は、東京・中野にある理容美容専門学校の先生。

いま現在の心配は、カットがうまくいかないことで悩み、登校拒否気味になっている木村弥生(徳永えり)と、生い立ちのせいで心理的に不安定な葉山洋平(窪田正孝)の二人であった。

久沙江自身もかつて、今は同僚の築木洋子(竹下景子)から、技術についての厳しい指導を受け、今日に至っていた。・・・・・・


弥生の彼氏や学校の友人、洋平の実家にいる継母やそこに生まれた赤ちゃんなど、一定の広がりをもちつつ、くじけそうな若者たちを、久沙江や同僚の教師、スタッフらが、懸命に支えていく物語だ。


結論めいたものが用意されているわけではなく、ストーリー上は後半に向けて、決して上り調子にはいかないが、久沙江自身も仕事に自信を失いかけたとき、かつての卒業生が久沙江の厳しかった指導に感謝しにくることにより、また奮起するというラストになる。

そのとき卒業生がくれたものが、コンテストで使ったはさみであった。


2時間近い通常の長さではあるが、扱っているテーマは、古くて新しい。よくある定番ものには違いない。どこにもあるような若者たちの行き詰まりを、彼らを指導する立場の先生との軸で、丁寧に微細に描き出した作品だ。

出だしはやや退屈に進むが、その一定の早さがこの映画の真骨頂になっている。それぞれの生徒の住まいやその近くに、久沙江が話に行く場面など、カメラがいい。

洋平のアパートのカットの積み重ねやその順もよく、会話の多少進んだところで、へやの中ほどに、洋平の持っているマネキンモデルの頭が見える。

弥生とは、国立(くにたち)の公園で会うが、ずっと長回しのまま、運動場のほうへ二人が歩きながら話をする。


とにかく、出てくる人物は、生徒も教師も、ひたすらまじめで真剣で、教師はみな面倒見がよく、生徒の身の振り方まで懸命に考えてあげている。生徒のほうも、ラスト近くに出てくる一人を除けば、自分のありかたを真剣に見つめ、悩み、それでももがいて前へ進もうとしている。

このありさまが、映画という虚構であるのは残念だが、しかし、現実の専門学校でも、実は一人ひとりが、多かれ少なかれ何がしかの葛藤のなかで、日々をやりくりしているに違いない。


実際の理容美容専門学校でのロケが多いので、そこに実際に在籍している生徒たちもエキストラとして練習風景が映るし、理容師・美容師の実技のシーンも見られ、それもうれしい。

池脇千鶴は顔カタチを含め、好きな女優であり、たまたま見つけた映画であったが、恋をする少女や娘役から、いよいよ、ものを教える役柄になってきたかと、ちょっとうれしくなる。

いわゆる美人系でもないが、背伸びをしない、まじめで悩める女性を演じるとピッタリくる。


『ガチバンシリーズ』に出ていた窪田正孝(2010年~2014年)は、心に問題をかかえたこういう役柄もうまいし適役であったと言える。

全体にキャスティングに成功した映画だ。雰囲気に沿う音楽もよい。

恋らしい恋もセックスも出てこないが、その分、誠実に撮られた姿勢に、好感のもてる一本だ。

メインタイトルに、なぜ、hasami と入れたのかは不明だ。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。