監督:山本薩夫、原作:五味川純平、脚本:山田信夫(全部)、武田敦(第二部)、撮影:姫田真佐久、音楽:佐藤勝、史料考証:澤地久枝(第一・二部)、美術:横尾嘉良(全部)、深民浩(第一・二部)、大村武(第三部)、照明:岩木保夫(第一・二部)、熊谷秀夫(第三部)、録音:古山恒夫、編集:丹治睦夫(第一・二部)、鈴木晄(第三部)、主演:滝沢修、芦田伸介、高橋悦史、浅丘ルリ子、カラー、シネマスコープサイズ、第一部:1970年、197分、第二部:1971年、179分、第三部:1973年、187分。
監督は『白い巨塔』や後の『華麗なる一族』の山本薩夫、脚本・音楽・出演者その他すべて一流どころが集結して出来上がった大作だ。この第一部だけでも、途中休憩を入れて3時間17分で、さらに第二部・第三部と続く。
また、配給会社同士が直前に合併してできた会社、ダイニチ映配という会社が配給したという、日本では前代未聞の映画でもある。この会社はこの作品だけは大ヒットしたものの、その後すぐ倒産している。製作は日活で、ポルノ全盛時代にこうした歴史的大作を心がけている。これは、日活という会社の沿革にもかかわっているのだが、実際にこのころの日活は金持ちであった。
邦画ではあまり多くない横長のシネマスコープサイズで出来上がっており、広大な風景や戦闘シーンからして妥当であった。
史料考証はまださほど著名になっていないころの澤地久枝が担当している。主演と書いたがオールスターキャストといってよく、地井武男が血の気の多い朝鮮人青年の役で出ている。俳優座、文学座、劇団民芸の俳優陣が中心となっている。三一書房版の原作を元にしているが、三一書房は共産系の出版社。思想にかかわる出版社の多くは共産系だ。
山本薩夫は『白い巨塔』『華麗なる一族』も監督しているが、両者は山崎豊子原作である。山崎豊子と松本清張原作ものは、映画化してもだいたいヒットする。映画づくりの前に、まず原作のストーリーがおもしろいからだろう。ただし、どれも長編なので、資金が集まらないと映画化できない。こう言っては監督に失礼なのだが、この映画も含め、これらすべて原作と脚本のおかげですぐれた作品となっているので、初めから興行収入は見込める。
戦闘シーンは随所に入るが、戦争映画というより歴史ものと言ったほうがよいだろう。
この第一部では、昭和3年の冒頭あたりから、同年6月4日の張作霖爆殺事件を経て、昭和6年9月18日の柳条湖事件、昭和7年1月の第一次上海事件までが描かれる。
ただ、それだけでは歴史の再現ドラマになってしまう。
伍代産業という新興財閥を中心に、関東軍の動きや、伍代家の人々の生き様、幾組かの男女の愛、思想弾圧される共産党員などの姿も入れられ、映画としては多少左に寄っているように思うがほぼ左右均衡でどちらのサイドにも光を当てており、ドラマとしても軍人から一線の兵士のようすにまで話題が及び、質的にも豪華絢爛な内容となっている。
ただし、反戦の匂いはほとんどなく、その意味でも歴史を踏まえた骨太の映像作品と言える。
これだけ膨大な内容と長さの映画であるのに、なぜ「序曲」なのかといえば、第二部以降では、昭和12年7月の盧溝橋事件、昭和14年のノモンハン事件へと展開するからである。日中戦争の原点は満州事変に始まるといってよいだろうから、この第一部を序曲としたのだろう。
当時の財閥の豪邸、中国の街なみや郊外の風景、人々の服装、馬車その他さまざまな大道具・小道具、激しい戦闘シーンなど、製作の苦労がうかがわれる。
ちなみに、第二部は第一部の出演者と、一部では子供だった何人かが大人になって出てくる。山本圭、吉永小百合、北大路欣也であるが、第二部の描き方は、圧倒的に反戦的であり、関東軍あるいは陸軍は悪者扱いされている。映画としてやはりすばらしいが、北大路と佐久間良子のメロドラマを伏線にした点と合わせ、私はあまり好きでない。そもそも、山本圭と吉永小百合の演技は、うまいと思えないし、いつも偽善者っぽく見えて好きでないのだ。
それでも、時間があるなら、通してご覧になるといいだろう。
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