映画 『クリスマス・ツリー』

監督:テレンス・ヤング、 原作:ミシェール・バタイユ、脚本:テレンス・ヤング、ピエール・デュメイエ、ジャン・オーランシュ、撮影:アンリ・アルカン、編集:ジョニー・ドワイヤー、音楽:ジョルジュ・オーリック、主演:ウィリアム・ホールデン、ブルック・フラー、ヴィルナ・リージ、ブールヴィル、1968年、104分、カラー、フランス映画(フランス語)、原題:L'arbre de NOEL/The Christmas Tree


監督は『007/ロシアより愛をこめて』『暗くなるまで待って』『夜の訪問者』などで知られるテレンス・ヤング。


裕福な実業家ローラン(ウィリアム・ホールデン)は、10歳の一人息子パスカル(ブルック・フラー)、交際中のカトリーヌ(ヴィルナ・リージ)と食事をしている。夏休みはパスカルの望みを聞いて、コルシカ島に行き、ボートで魚釣りをすることになった。

海に出てパスカルが釣り糸を垂れると、スクリューにからまったので、ローランが水に潜って直していたところ、近くの上空で飛行機の爆発事故があり、何かが落下傘とともに落ちてきた。

その後、パスカルの体調に異変が起き、放射能を浴びたことによる白血病とわかり、余命はあと半年くらいとのことであった。

ローランはパスカルと別荘に移り住み、友人のベルダン(ブールヴィル)とともに、あと半年をパスカルのために生きることにする。・・・・・・


主人公が死すべき運命を背負った少年少女であるという点では、初めからお涙頂戴の設定で、最後の時を幸せにするために、多少のわがままも聞いてやるという展開も平凡である。そうなると、この手のストーリーは、小説(文字)で表わせないものを、どうやって撮影し編集するかで、善し悪しが決まってくる。


この映画の場合は、少年が裕福な家庭の子であるということが前提になっているので、不治の病いになっても、広大な大地にぽつんと立つ城のような別荘に移り住み、薬は定期的に飲むものの、トラクターも買ってやるし、登場するごとに着ている服が違うなどということになっている。子供にしてはセンスのいい色合いのものが多い。

放射能を浴びたことが原因であったが、水の中にいたからというだけで父親は全く無事である。ただ、科学的な分析は映画という虚構に持ち込み過ぎると、映画という幻想が幻想でなくなってしまう。


パスカルのたっての望みは、かつて動物園で見た狼をペットとして飼うことであった。狼を売っている店などもなく、ローランとベルダンは、二人して、パスカルが見た狼を手に入れるべく、夜間その動物園に忍び込み、何とか捕獲し、その二頭に麻酔をかけ車のトランクに入れて運び出す。

これはこの映画のハイライトになるが、これだって、動物園にも警備システムはあるだろうし、狼に素人が簡単に近づけない、などと言ったら、おもしろくも何ともなくなる。

映画という夢は、夢のまま観てあげよう。

むしろ、映像として、シーンのつながりとして、カメラのアングルやカットの編集で、どれくらい感動を呼べるかによって、こういう映画の価値が決まる。


イヴの夜、訪ねてきたカトリーヌとローランは、車で街まで買い物に行く。パスカルはお手伝いの老婆と二人残されてしまうが、いつもキチンとした身なりのパスカルが、キッチンに一人になり、具合が悪そうに上のボタンをはずし、そのだらしないかっこうのまま、狼のいる地下へと歩いていく。誰にもここでパスカルの死を予感させる演出だ。

ローランは、パスカルが名付けた狼二匹、アダムとイヴが遠吠えを上げているのを聞き、事態を察知し、家の中へと急ぐ。

パスカルの亡き骸を抱いてローランが去ったあとも、二匹の狼は遠吠えを上げ続けてラストとなる。


邦画とは歴史や考え方が違うので、どっちがいいとは言えないが、こういう話の場合、日本の映画では、全体的にかなりしつこい演出やもって回った演出がなされがちだ。言葉が多くなり、同時に間を多くとり、そこにセンチメンタルな音楽や、その場でない情景、回想などが盛り込まれる。

この映画では、ストーリー展開とは別に、映像上は実に淡々とシーンが重なり、このラストに及んでも、それまでの映画のテンポは崩されることなく進んでいく。それでも、というか、そのためにかえって、ローラン同様、予想され覚悟していたとはいえ、急激に胸が締め付けられる。

悲しく涙するというより、嗚咽を漏らさせないほどの衝撃がある。失恋とはまた違う、少年が親を失うのともまた違う。父親が幼い我が息子を亡くす衝撃がいかばかりのものかは、ローランと同じように観客に伝わるのである。


馬と狼のけしかけ合いなどのシーンなども挟まれる。狼二匹は、実によく調教されており、初めて檻から出して、パスカルに近づくシーンは感動的だ。

折に触れ、『禁じられた遊び』(1952年)で有名になった「愛のロマンス」が、背後に流れる。


当時、珍しく有楽町の映画館まで観に行った記憶がある。

ようやくDVDが出て、素直にうれしく思う。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。