映画 『シャイニング』

監督:スタンリー・キューブリック、原作:スティーヴン・キング、脚本:スタンリー・キューブリック、ダイアン・ジョンソン、撮影:ジョン・オルコット、編集:レイ・ラヴジョイ、主演:ジャック・ニコルソン、シェリー・デュヴァル、ダニー・ロイド、1980年、143分(119分のヴァージョンあり)、原題:The Shining


ジャック・トランス(ジャック・ニコルソン)は、豪雪に覆われ冬の間だけ閉館となるオーバールックホテルの管理を引き受け、妻ウェンディ(シェリー・デュヴァル)、息子のダニー(ダニー・ロイド)とともに、そのホテルに移り住む。

初めのうちは珍しくすばらしいホテルのなかで、バカンス気分を味わっていた3人だったが、降雪が激しくなるにつれ、ジャックは次第に精神に異常をきたしてくる。・・・・・・


シャイニングとは、文字どおりにはきらきら輝いていることという意味だが、ここでは、未来を予知するような特殊能力といった意味合いで使われている。ただしこれはSF映画ではない。レンタルショップなどでは、サスペンスまたはホラーのコーナーによくある。


そもそも狂人を思わせるジャック・ニコルソンの風貌と、ムンクの「叫び」を思わせるシェリー・デュヴァルの風貌の組み合わせが興味深い。あえて妻役にニコルソンと並ぶ女優を使わなかったところもよかった。まともにかわいらしいのはダニーだけだが、これも全編でほとんど笑顔を見せることがない。

ジャックは明らかにおかしくなってはいくが、全編を通せば、その変容を見抜いているダニーもシャイニングをもつという点で普通ではないのであり、終盤ウェンディの目の当たりにする光景も幻想が多くなる。こういう意味では、ホテルじたいが時間空間を支配する巨大な魔物であり、このホテルの管理人としてひと冬過ごす家族は、みな狂ってしまうかのようである。


ゾンビが登場するわけでも奇怪な音がするわけでもない。血の映るシーンもほとんどない。この映画の真の主役は、このホテルそのものであり、実際、このホテルで過去に起きたエピソードが、現在に作用しているのである。時間の前後など支離滅裂であり、ラストのトランスの若いころのゴールドルームでの写真は1924年となっており、時間的概念はほとんど意味をなしていないかのようである。


教師嫌いのキューブリックらしく、トランスは教師をしながら小説を書くという設定だし、その妻は冒頭のシーンから、食事中に立て膝でタバコを吸っていて、顔つきからしてもやや軽薄な存在感である。


全体に恐怖を盛り上げていく映画なので、ひとつひとつそこだけの恐怖シーンだけで観る映画ではない。ただ、それなりのシーンもいくつかあって、ウェンディの閉じこもったバスルームの扉を、ジャックが斧で壊すシーンは迫力がある。何回か斧で叩くうち、木を破って斧の頭全部が飛び出て、斧の首を左右に振るシーンはおもしろい。その斧と、恐怖におびえ悲鳴をあげるウェンディの顔を、重ねて撮るあたり効果的だが、ほとんどキューブリックのサディズムではないかとさえ思われる。


237号室にいる裸の若い女とジャックの抱擁シーンもとよく考えた。繰り返し見ると、二人をアップにした抱擁シーンですでに、若い女は老婆に変わっており、その老婆のからだは伝染病のような痕だらけで、思わず鳥肌が立ってしまう。

他に、エレベーターのドアわきから、血の色をした水があふれ出てくるシーン、心配になりホテルを尋ねてきた黒人の料理人を、柱の陰からジャックが踊り出てきて殺すシーンなど、さまざまなアイデアと演出が効いて、残虐シーンがなくとも、充分恐怖感を醸し出すことに成功している。


ジャックが幻想のなかで、バーボンを飲むシーンがある。ホテルの内装もトイレもキューブリックがすべてデザインしているが、このシーンのバーカウンターもおしゃれである。このシーンの影響で、バーボンが好きになっていった。

映画のしゃれたシーンにはバーボンが似合う。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。